「で、シュラの様子はどうだったんだい、飛鳥? 拗ねたり、駄々捏ねたり、不機嫌だったりしなかったかな?」
「それが……。」


それまで、楽しそうに話をしながら、紙袋の中をアレコレ漁っていた飛鳥の手が、急にピタリと止まった。
これは、何かあったのか。
それとも、シュラが何かやらかしたのか。


「シュラがね、これまで見た事ないくらいに、上機嫌だったの。」
「……は?」
「上機嫌? コイツが? 女ばっかの人混みで?」
「会場に入る前から、チョコの良い香りが漂っていたんだけどね。中に足を踏み入れた途端、視界に飛び込んでくるありとあらゆるチョコのお菓子に、こう、シュラの瞳がキラキラと……。あ、顔は変わらず無表情なんだけど。」
「あぁ、成る程ね……。」


人混みよりも、女性の群よりも、何よりも、この仏頂面な山羊の心を動かすのは、甘いスイーツの誘惑だ。
あれだけの数のチョコレートが揃えば、それはそれは壮観だろう。
そのような光景など、今まで見た事もない男にとっては、心奪われ捲りだったのは想像に難くない。


「このシュラがだよ。はぐれたら困るからって、ずっと手を握っていてくれたり。あれは良いのかって気を遣ってくれたり。しかも、これだけイケメンで背が高くて、ちょっと怖い感じの男の人なものだから、他のお客さん達が皆、私達から距離を取っちゃって。何だか申し訳ない気もしちゃった。」
「クックッ、最高じゃねぇか。ボディーガードにも良し。人混みを追っ払うにも良し。持つべきものは、強面の彼氏ってなぁ。」
「貴様は自分の事を棚上げ出来んだろ、デスマスク。」
「痛っ! 雑誌を投げンな、ゴラ!」


恒例の下らない罵り合い、手の出し合いを繰り広げる蟹と山羊の横で、飛鳥は再び紙袋の中を漁り始めた。
デスマスクと私に渡したチョコレートの他に、何か見つけ出したいものがある様子で。


「何を探してるんだい、飛鳥?」
「折角の美味しいお茶だから、これと一緒に食べたいチョコレートがあったんだけど……。」
「今、食べる気?」
「うん……。」


私は飛鳥がくれたチョコの箱を、テーブルの上に置いて、彼女の手元の紙袋を覗き込んだ。
正直、私は蟹と同じチョコを彼女から渡されて、少しだけ落胆していた。
だが、優しい飛鳥の事だ。
それぞれに違う物を渡して、ああだこうだと言い合いになるのを避けたかったんだろう。


「あった、これ! ナイアガラチョコとチョコマカロン! とっても美味しいのよ。」
「あ? コレ、日本のチョコじゃねぇか。」
「日本のチョコレートを馬鹿にしてはいけません。品質も味も舌触りも、スペシャルグレイトなのだよ、デスマスク君。」
「オマエ、言葉遣いがヘンだぞ。」


飛鳥が差し出したのは、大粒のマスカットの実を思わせる薄白緑のホワイトチョコレート。
口に含むと滑らかに柔らかく、スッと溶けていく。
鼻から抜ける芳醇なフルーツの香りと、舌の先を掠める仄かに辛い大人の味わい。
まるで上等な甘口の白ワインを口に含んでいるような感覚に陥る。


「ナイアガラワインを使用した大人のための生チョコなの。口に入れた瞬間に、幸せな気分になるでしょ。」
「お、美味いな、コレ。柔らかさも絶妙だ。」
「こっちのチョコマカロンも食べてみて。絶対に、このミルクティーに合うから。」


言われて、皿の上のマカロンにフォークを通す。
ドッシリとした感触は、マカロンというよりも、マカロンの形をしたチョコケーキといった方が当たっている。
薄いチョココーティングの内側は、しっとりと濃厚なチョコ味のケーキに、淡い味わいのチョコクリームがサンドされていた。
味はビターだが、苦過ぎず、心地良い甘さが口の中を占拠していき、ほっこりと心が和む、この感覚。


今日のティータイムには良く合うお菓子だった。
甘いようでほろ苦い、苦いようで仄かに甘いチョコレート菓子、まさに大人な私達には。



甘くて苦い大人のティータイム



(……美味い。)
(あ、シュラ! 全部は食べちゃ駄目! 滅多に買えないんだから!)
(ならば、日本まで買いに行けば良い。)
(もうっ! そんな簡単に言わないで!)



‐end‐





ル○オのレアチョコ・ナイアガラと、ロ○ズのカカオマカロンをイメージしました。
カカオマカロンは自分じゃ食べないので分かりませんが、ナイアガラは本当に美味しいです、お勧めです^^

2015.02.08



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