花よりダーリン!



「シュラ! 近々、日本に行く予定はない?」
「……近々? 日本?」
「うん、十日以内。いや、一週間以内!」


午後のお茶の時間。
熱い紅茶の入ったティーポットとカップ、出来立てのタルトの乗ったトレーを持ってキッチンから現れた飛鳥は、ドンと少し強めにそれをテーブルに置くと、身を乗り出して俺に尋ねてきた。
チラと横のデスマスクを見遣ると、奴は置かれたティーセットを引き寄せ、勝手にコポコポと自分の分の紅茶を注いでいる。
俺の困惑など知ったこっちゃないと言わんばかりに、ズズズと響く茶を啜る音。


「次に女神の護衛に当たるのは、確か五月の頭だったか……。まだまだ先の話だな。」
「五月……。それじゃ遅過ぎるよ。」
「だったら俺が連れてってやるぜ、飛鳥。三日後、老師と護衛の交代で、丁度、日本に行く予定だからよぉ。」
「デスさんじゃ駄目。」


ニヤリと笑って、流し目までくれるデスマスクの提案は、サラッと一蹴。
デスマスクには目もくれず、飛鳥は更に身を乗り出して、俺に詰め寄ってくる。
その距離が徐々に詰まる毎に、増えていくのは額を伝う汗の量。
二人きりの時ならば良いが、今はココにもう一人居るのだ。
興味本位にニヤけながら俺達の様子を眺めている、デスマスクの視線が痛い。


「ど、どうして、そんなに日本へ行きたいんだ?」
「故郷に帰りてぇ、ってかぁ? ホームシックにでもなったンじゃねぇの、飛鳥? あ?」
「違いますー。そういう事じゃないの。」
「お前は少し黙っていろ、デスマスク。」


煩い外野の声は無視だ。
俺の横へと移動してきた飛鳥の顔を覗き込み、一体、何がしたいのか、何を望んでいるのか、その心を推し量ろうと試みた。
が、その煩い外野が余計に食らい付いてくるのだから、面倒臭いというか、傍迷惑というか……。


「だーかーらー、理由は何であれ、俺が行く予定あるっつってンだから、連れてってやるって。」
「だーかーらー、デスさんじゃ駄目なんですって。」
「だーかーらー、なンで、そンなにシュラにこだわってンだよ。」


なかなか引かないデスマスクの言い分にも頷けるところはある。
そんなにも日本に行きたいというのであれば、その理由は何であれ、ヤツと一緒に行けば良いのだ。
折角、連れてってくれると言っているのだから。
まぁ、実際は、蟹と飛鳥が二人きりで日本に向かうなど、デスマスクの奴を叩っ斬ってでも阻止するがな。


「どうしても作りたいお菓子があるの。今じゃなきゃ駄目なの。日本じゃなきゃ駄目なの。」
「日本じゃなければ駄目という事は……、和菓子か?」
「うん、桜餅。」


あぁ、それでか。
『今直ぐ』と『日本』に、強くこだわる理由。
日本の菓子は季節感を大事にする。
この一週間が過ぎてしまえば、桜の時期を逃してしまい、一年後までは作れなくなるという訳か。


「ンだよ。だったら、別に日本にこだわらなくたってイイじゃねぇか。材料取り寄せりゃ、ココでだって作れンだろ。」
「アテナに頼めば、材料くらいは揃えてくれる。確か、和菓子も好きだと仰っていた記憶があるが。」
「そうなんだけど……。でも、それじゃ駄目なの。」


道明寺粉、塩漬けした桜の葉、小豆。
どれもギリシャでは手に入らないものばかりだが、グラード財団の拠点が日本にあるのだから、アテナであれば簡単に取り寄せられるだろう。
多少、値は張るだろうが、売り物にするでもなし。
アテナと俺達が食べるくらいであれば、それで全く問題はない。





- 1/4 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -