オランジェットの嫉妬心


〜オランジェット〜
オレンジのシロップ漬けをチョコレートでコーティングした華やかなお菓子。
プレゼントやお土産、おもてなしスイーツにもピッタリ。



何て気分の良い午後だろうか。
窓から差し込む日差しも、暖かで清々しい。
この宮の主、シュラという名の邪魔者も、執務当番で夕方までは帰ってこない。
今日のお茶の時間は、飛鳥と二人きり、ゆっくりと過ごせるという訳だ。


「ディーテは……、やっぱり紅茶よね?」
「ん? どうしてだい?」
「今日のお茶請け、これなの。」


キッチンから出て来た飛鳥が持っていたのは、お皿に盛られたオランジェットだった。
鮮やかなオレンジ色と、艶やかなチョコレートのコントラストが美しい。
市販のオランジェットは、細切りのオレンジにチョコレートコーティングしたものが主流だが、彼女の作ったのは輪切りのオレンジを使った、見た目も豪華で鮮やかなオランジェットだ。
オレンジの砂糖漬けの半分を覆うチョコレートの芳醇な香りが、見た目の豪華さに加えて更なる期待を煽る。


「これはこれは、何ともゴージャスなお茶請けだね。」
「ありがと。で、オランジェットと一緒に飲むなら、やっぱりコーヒーかなぁ、と。」
「あぁ、それで。」


確かに、オレンジの甘みと酸味、チョコレートの苦さとコクが混じり合ったこのスイーツには、深煎りのコーヒーが合いそうだ。
そうは思っても、やはり私はコーヒーよりは紅茶が良い。
飲まず嫌いではないけれど、どうにもコーヒーは口に合わない飲み物ではある。


「だったら、アールグレイを濃い目に淹れてくるね。同じ柑橘系の味だから、オランジェットと相性も良い筈だし。久し振りにコーヒーも良いかと思ったけど、私もアールグレイにしようかな。」
「悪いね、飛鳥。私に付き合わせてしまって。」


暫くすると、ティーポットとカップの乗ったトレーを持って、飛鳥がキッチンから戻ってきた。
アールグレイの心安らぐ良い香り。
ほろ苦くて甘いオランジットを一口齧った後に飲むアールグレイは、爽やかな風味が増して、とても美味しく感じた。


「実は、お酒のお供に作ったんだよね。」
「このオランジェット?」
「そう。ラムとかウイスキーに良く合うの。」
「そうか……。だったら、紅茶じゃなくてお酒でも良かったかもね。」


休日だし、昼間から飲んでも罰は当たらないだろう。
飛鳥とお酒を嗜む、大人の午後の過ごし方。
邪魔者もなく、それは何と素晴らしい時間だろう。


「でも、ディーテとは、ゆっくりお茶を楽しみたいかな。」
「私と一緒には飲めないって事かい? 以前は頻繁にシュラへの愚痴に付き合って、一緒に飲んでいただろう?」
「そうだけど……。近頃は、山羊な旦那様が口煩くてね。デスさん以外の男性と二人きりでお酒を飲んだら駄目だって。私が抱き付き魔だから心配みたい。」


は?
何だ、それは?
飛鳥が誰と飲もうが彼女の自由だろう。
独占欲の塊か、あの山羊め。


「……蟹だけが例外っていうのが理解出来ないけど。」
「ああ見えて、一番、安心安全な男だと、シュラが言ってたの。」


デスマスクよりも危険だと思われていたのか……。
それにしても、飛鳥と二人きりでお酒を飲める、それがシュラだけ許される事の腹立たしさよ。
そして、それを彼女が許容している事の羨ましさよ。
それが、どれ程の幸せなのか、アイツが理解しているか怪しいところが、本当にムカつく。
あの目付きの悪い山羊には一度、しっかりと言い聞かせてやらなければいけないな。



‐end‐





お魚さま、山羊さまへメラメラと嫉妬心を燃やすの巻w
年中組三人と彼女で飲むのは許しても、お魚さまと二人きりで飲むのは許さないという、山羊さまは独占欲の権化ですw
でも、蟹さまだけ信頼しているところがね、面白いと思いますよw

2022.12.02



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