入ってきたのは噂に名高い目付きの悪さを誇る、俺の親友、シュラだった。
俺の首にしっかりとしがみ付いているアイラの様子に驚いたのか、いつもの鋭い目をやや見開き、戸惑った顔をしている。


「デスマスク、アイオロスはどうしたのだ?」
「知るかよ。あのヤロー、いつの間にかいなくなりやがった。」


当たり前に不機嫌な俺。
だが、それとは反対に、シュラの声が聞こえた途端、腕の中のアイラが、急速に元気を取り戻した。
見れば、腕に抱っこしたアイラは、さっきまで泣きべそかいてやがったのが嘘のように、目をキラキラさせている。


「ちゅらたまだっ! ちゅらたまー!」
「おい、アイラ! 暴れンな、落ちるぞ! 今、降ろしてやっから、大人しくしてろ!」


腕の中でバタバタ暴れるアイラは、今にも落ちてしまいそうな程。
俺が注意しようが何しようが、既に聞く耳を持たず、心も視線も目の前にいるシュラだけに向いてる。
床に足が着くと同時に、アイラはその短い足で一直線にシュラに向かってダッシュした。


――バタバタバタ、ガシッ!


「ちゅらたま〜♪」
「……ん? アイラ、目が腫れてないか? どうした?」
「なんでもないもん! アイラ、ないてなんかないもん!」
「……そう、か。」


駆け寄ったアイラを屈み込んでキャッチしたシュラは、慣れた仕草で抱き上げると、その頭をポフポフと撫でてやる。
それが嬉しいのか、猫のようにゴロニャンとシュラの頬に擦り寄るアイラは、その首に腕を回しガッシリとしがみ付いて、何があっても離さないぞという強固なオーラを醸し出していた。


「しっかし、なンでそンなにシュラが良いワケ? 年中、仏頂面で楽しくもねぇし、しかも、こんな目付きの悪ぃのがよ。」
「だって、ちゅらたま、かっこいーんだもん! アイラ、ちゅらたま、だいすき!」
「目付きの悪さは、お前で見慣れているのだろう。」
「ぁあ? なンか言ったか、このヤロー。」


確か、物心付いた頃から、アイラはシュラ一筋だったな。
他のヤツ等と遊んでいる時でも、シュラの姿が見えれば、何もかも放り出してシュラに駆け寄ってたし。
一度、シュラにしがみ付いたら、疲れて寝るまでは、絶対に離れようとしねぇし。


「おい、アイラ。間違ってもコイツと結婚するとか言うなよ。」
「え〜、なんで? アイラ、ちゅらたまとけっこんしたい。」


ダメだ、ダメだ、ダメだ!
こんな目付きも素行も悪い男、アイラの婿になんて相応しくねぇ!
自分の事は棚に上げても、絶対に反対だ、猛反対だ!
ぜってーに許さん!!


「デスマスクよ、恋愛は自由だ。例え親だろうと口出しは出来んぞ。」
「オマエな……。俺が舅で、アイリーンが姑になってもイイのかよ?」
「……それは嫌だな。」
「だろ?」


アイラは俺に似てるからな、将来、超絶美形になる事は間違いねぇ。
まぁ、アイラが女として開花するまでは、あと十数年。
そンな先の事は考えたくないのが正直な話だが、ココは何せ狼だらけの聖域だ。
こンなに飢えた男共が、そこかしこにのさばり返ってる危険地帯では、用心は早いに越した事はない。
俺はシュラにビッタリくっ付いてるアイラの姿を眺めながら、少しだけ憂鬱な気分になった。





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