予想外に例のお二人から逃れる事が出来て、私は少しだけ戸惑っていた。
キョロキョロと辺りを見回しながら、隣の部屋へと移動する。
そこでは既に飲み会が進んでおり、皆、それぞれ近くの人と話し込んでいたり、笑い合っていたり、陽気な宴の花が、あちこちに咲いていた。
グルリと見回しても、何処にも空席は見当たらない。


「鮎香、どうした?」
「あ、アフロディーテ様。」
「珍しいね。今夜はアイツ等に捕まらなかったの?」
「実はムウ様が逃がしてくださったんです。」


ポンと肩を叩かれ、吃驚して振り返った先には、艶やかな微笑をたたえたアフロディーテ様が立っていた。
ミロ様達から逃れてきた経緯を話すと、それはそれは面白いものを聞いたとばかりに本気で笑われた事に、また吃驚する。
そ、そんなに面白い話だったかしら?


「それは見物だったな。私もムウに叱られて小さくなってるアイツ等を見てみたかったよ。」
「アフロディーテ様ったら。」
「ハハハ、すまない。」


目尻に溜まった涙を拭って、彼はまた私の肩を叩いた。
その意味が分からず、疑問符を浮かべて見上げるアフロディーテ様の顔には、目を見張る程の麗しい微笑。
彼は一体、何が言いたいのだろう?


「良かったじゃないか。たまにはアイツ等に悩まされない飲み会があっても良い、キミは彼等が独占する所有物じゃないんだからね。今夜は目一杯、楽しむと良いよ。」
「はぁ……。」
「ほら、これを。」


そう言って、アフロディーテ様は自身の手に持っていたグラスを、私の手に握らせた。
でも、この深い紫色の液体は……、明らかにワインよね。


「大丈夫、それは葡萄ジュースだから。アルコールは全く入っていないよ。」
「これがジュース?」
「そ、ジュース。残念な事に、明日は朝から任務でね。今夜はアルコール抜きなんだ。」
「それは大変ですね。」
「仕方ないさ、聖闘士なんだから。」


年二回、恒例のパーティーの翌日は全員が休みになる。
それも、この聖域内の決まり事。
でも、どうしても休めない部署の人達や、先延ばしに出来ない任務がある場合は、その限りではない。
残念な事に、アフロディーテ様には、その任務が割り当てられていたようだった。


「私の事は気にしなくて良いから、鮎香は折角の機会を楽しまなきゃ駄目さ。それを持って……、ほら、あそこ。シュラの隣が空いている。アイツとお喋りをしてくれば良い。」
「え、でも……。」
「良いから、良いから。うかうかしてると、他の誰かに場所を取られてしまうよ。」


促されて見た方向には、一人、ソファーに座ってグラスを傾けているシュラ様の姿があった。
確かに、話し掛けるには、今がチャンスだと思う。
でも、自分から行くなんて、恥ずかしいというか……。


躊躇う私を見遣り、アフロディーテ様は小さく肩を竦めた後、強引に私の腕を掴んで歩き出した。
引き摺られるままヨタヨタと歩を進める私は、そんな彼を止める事も出来ずに、あっという間にシュラ様の直ぐ傍まで近付いた。
そのままドンと強く背を押されてしまえば、よろけながらもシュラ様の視界の中へと飛び込んでしまう。
そうなれば、もう恥ずかしいなんて躊躇っている場合ではない。


「……鮎香?」
「し、シュラ様、あの……、こんばんは。」
「珍しいな。今日はアイオリア達に捕まらなかったのか?」


促されるまま空いていた隣に座り、ムウ様とミロ様達の遣り取りの一部始終を説明して聞かせる。
お二人には申し訳ないけれど、これが話のきっかけとなって、スムーズに何の不自然さもなくシュラ様との会話に繋がったのだから、返って感謝しなければいけないのかもしれない。
それにアフロディーテ様。
こうして背を押してくれたという事は、多分、気付いている。
私がシュラ様に恋心を抱いているという事実を。
知っているからこそ、彼の隣に誘(イザナ)ってくれたのだわ、きっと。





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