見上げる空には、白い雲がゆったりと流れている。
穏やかな時間だ。
普段は余り感じられない、安息の時。


「で、いつまで、こうしているつもりなんですか?」
「そうだな……。気持ち良い昼寝の途中で、邪魔されてしまったからな。」
「もしかして、その邪魔者は私……、ですか?」
「そうなるな。」


言われて、鮎香の顔が大きく曇る。
今度は俺がクスリと笑う番だった。
勿論、本気で言った言葉ではない。
ただの言葉遊び、じゃれただけのつもりだったが、真面目な鮎香は本気の言葉と捉えたようだ。
俺は寝転がったまま手を伸ばし、座る彼女の膝をポンポンと叩いてやった。
それを受けて、鮎香の唇から、ホッと大きな息が零れ落ちた。


「ならば、昼寝の邪魔をした、そのお詫びをしてもらわねばな。」
「お詫び?」


これ以上、彼女が本気に捉えてしまわないよう、笑いながら言葉を繋ぐ。
これがタダの言葉遊びと理解した鮎香も、微笑みを浮かべて返事を返してきた。
そのフワリと柔らかな笑顔が眩しい。
出来ることなら、ずっと彼女の傍で、その顔を眺めていたいと思ってしまう。


「ココは風が心地良くて、陽も温かだが、どうにも自分の腕枕じゃ寝心地が悪くてな。」
「寝心地ですか? 何か枕の代わりになるものでもあれば良いですけど……。」
「代わりなら、ココにあるだろう。」


先程と同じく、寝転んだまま手を伸ばして、鮎香の膝をポンポンと軽く叩いた。
勿論、それも冗談のつもりだった。
膝枕を強請る俺の態度に、戸惑う鮎香の姿を見て楽しむ、そんなつもりだったのだが――。


「膝枕ですか? 良いですよ。」
「……は?」
「私の膝で良ければ、どうぞお貸しします。」


俺は思わず頭を上げて、鮎香の顔をマジマジと見つめた。
そんな俺をポカンと見返す彼女の様子から、冗談の類ではないと分かる。
先程は明確な返事をせずに、上手くはぐらかしてみせた割には、今のこの態度。
膝枕などしているところを誰かに見られた日には、後々、何を言われてしまうか分からないのに、それを全く考えていないのか?


「どうしました、シュラ様?」
「いや……、本当に良いのか?」
「はい、遠慮せずに、どうぞ。」
「ならば……。」


遠慮がちに彼女の膝に頭を乗せた。
堅い筋肉に覆われた自分の腕とは全く違う、柔らかで弾力のある感触は、女性ならではのものだ。
恋人同士でもないのに、鮎香の膝枕で昼寝が出来る、この幸運。
最初こそ、胸の奥が柄にもなくドキドキと高鳴ったが、直ぐにそれを掻き消す心地良さに包まれ、俺はゆっくりと瞼を閉じた。


「鮎香。」
「はい、何でしょうか?」
「こんなところで時間を食ってても良いのか?」
「戻りは五時頃だと言ってありますから、まだ大丈夫です。」
「そう、か……。」


いつの間にか、鮎香が俺の髪を柔らかに撫でていた。
吹き付ける暖かな風も心地良かったが、優しく撫でるその手は、それ以上の心地良さを俺の全身に与えてくれる。
眠ってしまう気など微塵もなかったのだが、どうにもこの心地良さには抗えなくて。
気が付けば、いつの間にか夢の世界へと引き込まれていく自分がいた。


夕方前の穏やかな時間。
草木の優しい歌が響く草原で。
鮎香の膝の上で見る短い夢は、最高に幸せで、至福の時間だった。



愛しい彼女の膝枕
(夢のような現実の時)



‐end‐





山羊さまを膝枕……。
なんてニヤニヤのシチュですね、美味し過ぎます^0^
今回はちょっと短くなってしまいましたが、次回から急展開で恋愛要素が進展する予定なので、あっさりめに終わらせました。
(という予告発言ですw)

2013.04.30



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