「前にも言ったが、俺はアンヌを一生手離す気はない。ずっと磨羯宮にいて欲しい。俺の我が侭、聞いてくれるか?」


それはつまり、高いままのお給料を変わらずに受け取って、この宮で働いていて欲しいという事だ。
減給をすれば、私を手離さなくてはならなくなるかもしれない。
だから、このまま、今のままで変わりなくいて欲しいと。


「……分かりました。その代わり、私の我が侭も一つ聞いて欲しいのですが。」
「何だ? 出来る事であれば、何でも聞こう。」
「では、一つだけ。上積み分のお給料は、シュラ様のために使わせてください。」
「それは……。」


上積み分のお給料は、宮費の中でもシュラ様が私用に使うためのお金、つまりはシュラ様自身のお給料に当たる部分から支払われる。
という事は、それは本来、シュラ様が自由に使うべきお金だ。
だったら、私はそれを自分のためにではなく、シュラ様のため、この宮やこのお部屋のために使いたい。
そうしないと釈然としない、気持ちが割り切れずにモヤモヤとしてしまう。


「駄目ですか? でも、私が頂いたお給料です。私が好きに使っても良いのではないですか?」
「いや、しかし……。」
「このお部屋にピッタリな時計ですとか、花瓶ですとか、ちょっとした雑貨を買ったり、お料理に合う素敵な食器を揃えたりだとか。それなら、どうですか? 構わないでしょう、シュラ様。」


そうよ。
シュラ様自身がこの部屋を味も素っ気もない質素で簡素なままで置いておくというのなら、私がこのお部屋を誰が見ても素敵なお部屋へと変えて上げたい。
彼に合った、心の落ち着くような、この部屋にいて心安らぐような、そんなお部屋を作りたい。
元はシュラ様が使うべきお金なのだもの。
シュラ様のために使う以外、他の何に使えるというの?


「例え、シュラ様が駄目と言っても、私は決めましたから。私が勝手に好きなものを買ってくる分には、文句は言わせません。だって、この部屋の飾り付けを私に一任してくださったのは、シュラ様ですよ。」
「アンヌ……。」
「ココで働かせてください。私もシュラ様のお傍で、ずっと働いていたいです。だから、お給料はキッチリ頂きます。その代わり、そのお金はシュラ様のために使わせてください。」


シュラ様の鋭い瞳が、ジッと私を見下ろす。
でも、怯みはしなかった。
逸らす事なく、私も彼をジッと見上げた。


呼吸の音すら響き渡りそうなまでの沈黙が続く。
濃いグレーに変わっていた部屋の闇が、シュラ様の白い頬を濃い闇の色に染め替えていた。
ホンの数秒なのか、それとも、数分なのか。
時の感覚を失いそうな刹那の時間が、無言で見つめ合う私達二人の間に流れていた。





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