12.六日目A



「さてと……。」


シュラ様を午後の執務に送り出した後、この午後は何をしようかと、私は色々と考えていた。
特にこれと言ってする事がない。
いっそもう一度、大掃除でもしようかしら。
折角、新しいラグとカーテンを入れた事だし……。


と、そこまで考えたところで、昨日の買物はかなりの出費だった事を思い出し、宮費の帳簿整理をしなきゃいけないと気が付いた。
そう言えば、この宮に来た初日に、シュラ様が領収書の整理をしようとしていたわ。
途中で手を止めてしまったけれど、あれは何処へ置いたのだったかしら……。


リビングの中を一通り探しても見つからず、自分の部屋へ向かう。
あの日、一纏めにした書類等を入れた箱を備え付けの小さなデスクの下で発見し、シュラ様がまた中身をゴチャゴチャにしなようにと自室に隠した事を思い出した。


「よし。午後のお仕事は、これで決定ね。」


この午後は、宮費関係の帳簿付けと書類整理に時間を当てる事にした。
今日までの六日間、昨日の大きな支出を除いたとしても、多少の出費もあった訳だし。
これまでのシュラ様のお金の使い方も知っておかないといけない。
今後の予定を立てて、遣り繰りするのに必要だものね。


だが――。


「嘘……。何、これ? おかしいわよ、こんなの……。」


それは予想外の内容だった。
こだわり屋で浪費癖のあるデスマスク様と違い、無駄なお金は殆ど使わないシュラ様の事だ。
宮費の管理は、以前よりもずっと楽だろうと思っていたのに。
明らかに、巨蟹宮の宮会計よりも、この磨羯宮の宮会計の方が切羽詰っている状態なのだ。


だが、この一ヶ月の間で見ても、昨日の出費以外、特に大きな買物などはしていない。
領収書やレシートの内容は、全て食料品や、ちょっとした日用品ばかりである。
これだけで、こんなにギリギリの生活になるのだろうか?
見れば見る程、疑問が湧き上がる。


その理由を探って、私は帳簿を遡って辿ってみた。
そして、その原因は直ぐに判明した。


少ないのだ、支給されている宮費の額が。
デスマスク様に比べて、圧倒的に少ない。
およそ三分の二程度だろうか。
シュラ様が受け取っている月々の宮費の額は、およそ黄金聖闘士が受け取っている額とは思えない。


これだけ少なければ当たり前だわ。
日々の生活費の他、時々、デスマスク様達との飲み会に持参する酒類に掛かる代金。
そして、時折、市街へと出掛けて使う、ちょっとした支出。
そこから何かあった時のために月々積み立てている金額を引くと、残りはホンの僅か。
これなら毎月ギリギリになるのも頷ける。


でも、どうしてだろう?
宮費の基本額は、どの宮も皆、一律で同じだと思っていた。
そこに、教皇補佐などの役職分の上積みがあったり、妻や子・兄弟姉妹などを養っている場合の扶養者手当てが付いたり、私のような女官や従者を雇うための手当てが付いたりで、多少は金額が増える事はあれど、減る事があるなど聞いた例(タメシ)がない。


デスマスク様が受け取っていた宮費には、女官雇用手当てが付与されていた。
ならば、その額から私のお給料分を差し引いた金額が一律の宮費額、つまり、シュラ様の受け取っている宮費の額とイコールになる筈。
なのに、それでもシュラ様の貰っている宮費額の方が遥かに下回っているのだ。


基本分の宮費額が違うなんて、そもそもある事なのだろうか?
他の黄金聖闘士の宮費額も、皆、違っているのだろうか?
ただ私が知らなかっただけなのだろうか?


頭の中が目まぐるしくグルグルと回った。
何が何だか分からなくて、私は激しい混乱の中に落ちていた。





- 1/9 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -