ラグとカーテンを購入すると、私達は寄り道もせず聖域に戻った。
こんな大きな荷物を抱えていては、他の場所には立ち寄れない。
そうと分かっていたから、最初からこの二つは最後に買うと決めて、色々と買い物をしてきた。


「重くないか、アンヌ?」
「大丈夫です、重さ的には。」
「重さ的には、だと?」


長い長い十二宮の階段は、何処まで上っても終わりが見えない。
いつも途中から、この階段は地獄へでも繋がっているのではないかと、そんな不謹慎な事を考えてしまう程に、この上りはキツかった。
自然と上がる息。
まだ冷たさを含んだ春の風は心地良い筈なのに、首筋には汗が滲んで流れていく。


「重さは大丈夫ですが、この上りが……、大丈夫では、ない……、です。」
「随分と息が上がっている。運動不足ではないのか、アンヌ?」
「いえ、まぁ、確かにそうなんですけど……。」


住み込みの宮付き女官の仕事ですからね。
はっきり言って、自分の自由時間は殆どないに等しい。
言い訳ではないけれど、運動など聖域内の市場への往復くらいが関の山だ。


「この荷物さえなければ、俺が抱えて連れて行ってやるのだが。」
「そ、そんなっ! 滅相もない! 恐れ多いです!」
「今更、何を遠慮する必要がある。もうキスも済んでる仲ではないか。それに俺の素っ裸も見てるしな。」


まだ、それを言いますか!
まだ、それを言いますか!
やっと忘れ掛けていたのに、また思い出させますか!


「悪いのはシュラ様ですからね。何度も言ってますように。」
「俺が見られたのにか?」
「そうですよ。」


きっと、この先、事ある毎に言い続けるのだろう。
明日になれば綺麗さっぱり忘れていてくれれば良いけれど、この人はきっと忘れない。
そして、しつこく繰り返すのだろう。
そうして私をからかって、困らせて喜ぶのだわ。


「……アンヌ。」
「はい。」
「少しココで待ってろ。」
「はい?」


突然の事に、どうしてか理由を聞こうとしたのだが、次の瞬間には身体が飛ばされそうな突風が私を襲った。
石造りの階段の脇に積もっていた砂塵が、渦を巻いて巻き上げられ、私の視界を奪う。
漸く砂煙が治まった頃には、シュラ様の姿は影も形も見えなくなっていた。
あの突風は、シュラ様が走り出した事で起こったものだったのだ。
こんなにも物凄い風を作り出してしまう程、黄金聖闘士の疾走は凄まじい速さなのだと、実際に目撃して呆然とする。


「待たせた。」


再び、物凄い突風が巻き起こり、『ゴウッ!』という音と共にシュラ様の声が響く。
数分も経たない内に戻ってきたシュラ様の周囲には、先程までの大きな荷物は見当たらなかった。


「宮に戻って置いてきた。これでアンヌを抱き上げられる。」
「……え?」


抵抗も何もあったものではない。
気付いたらシュラ様に抱き上げられ、その腕の中にいたのだから。
しっかり掴まっていろと、彼の声が響いた時には、もう嵐に呑まれていて。
私は無我夢中でシュラ様の身体に掴まっているしかなかった。



→第11話に続く


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