昼食に入ったお店は、大通りを一本逸れた細い小路に面したこじんまりとしたカフェだった。
世界各地の多種多様な紅茶が評判の店なのだが、ランチが意外に美味いのだと、少しだけはにかんだ笑顔を浮かべたシュラ様が教えてくれた。
ただし、メニューには三種類のランチセットしかないので、選ぶ楽しみがあまりないのだがと、はにかみを苦笑に変えて付け加えるのが、何処となくおかしかった。


「アンヌは、何処か寄るところはないのか?」
「はい、今日はシュラ様の買い物がメインですから。私は特に何処にも用はありません。」
「そうか……。」


午前中のうちに細々とした買物を済ませてしまった私達。
残すはメインの大きな買物だけである。
大きな荷物の持ち帰りになるだろう事を考えて、ラグとカーテンはショッピングの一番最後にしようと、あらかじめ決めていたのだ。


「シュラ様、日用品などは買わなくても良いのですか?」
「日用品? 何か不足してるものでもあったか?」
「いえ、そうではなくて……。」


黄金聖闘士は自宮を管理する費用として宮費を支給されているが、それ以外にも、日用品と、小麦粉や調味料などの腐らない食料品については、宮費とは別に支給されていた。


デスマスク様は非常にこだわりの強い性格ゆえ、支給された日用品を使った試しがなく、洗剤でも石鹸でもシャンプーでも、そういった物については、いつも自分の気に入った品物を備蓄している。
そのため、彼が使わない支給品は私が使ったり、雑兵さん達などに配ったりして消費していた。
そんな彼のこだわり抜いた品物については、いつも聖域内にある市場(イチバ)のおじさんに頼んで、取り寄せてもらったりと、兎に角、手に入れるのが大変だった。


でも、シュラ様といえば、その真逆。
こだわりがない部分については全くこだわらない性格なのか、支給された日用品をそのまま文句も言わずに使っている。
歯ブラシが硬めだろうが、柔らかめだろうが、全く気にしない。
トイレットペーパーが硬かろうが、薄くてペラペラだろうが、全く意に介さない。
それはデスマスク様のように余計な支出が掛からないという面では家計には優しいのかもしれないが、何とも無頓着過ぎて、それはそれであまりにもという気がする。


「せめてシャンプーくらいは、気に入ったものをお使いになられてはどうです? 髪質で合う、合わないもあるでしょうし、香りだって好き嫌いはありますでしょう?」
「別に、普通に使えれば問題ない。俺は支給品で十分だ。それに……。」
「それに?」
「買いに行くのが面倒だろ。」


でた、口癖の『面倒』。
やっぱりそうきましたか、そうじゃないかとは思ってましたけど。
それにしても、聖域内の市場へ買い物に行く事すら面倒だなんて、どんだけズボラで怠惰なの。


でも、そんな面倒臭がりのシュラ様が、今、こうして自分と一緒にアテネ市街まで出てきてくれた。
それが、とてつもない奇跡のように思えてくるのが、何だか不思議でならなかった。





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