あれから三ヶ月が経った。
外の景色は秋色に変わり、黄金色に輝く世界は、気温は低くても何処かほっこりとした暖かさをもたらしていた。
ギリシャとはいえ山奥にある聖域は、それなりに寒い。
夏は昼間の外出が出来なかった私も、今は体調を気にせずに出掛けられる。
時には双魚宮へお花を分けてもらいに行ったり、時には獅子宮へ歩美さんとお喋りしに行ったり、時には教皇宮へ手作りお菓子の差し入れに行ったりと、毎日が、とても充実している。
シュラ様が任務へ出てしまうと、心配で不安で苦しくて、それはそれは辛い思いもするけれども。
それも含めて、私は今、とても幸せなのだと実感もしていた。
良い事も悪い事も、楽しい事も辛い事も、全て纏めて一つになって、私の毎日は充実していると言えるのだ。


「シュラ様、そちらの準備をお願いしても良いで……、あっ!」
「何だ?」


夕方、聖闘士候補生達への指導を終えて戻ってきたシュラ様。
いつものように汗濡れのウェアを床に脱ぎ捨ててシャワー室へと消えたのを知っていた私は、そろそろ着替えも済んだ頃かとリビングを覗き込んだ。
が、そこには着替えを済ますどころか、ボクサーパンツ一枚だけの姿でソファーにドッカリと座り込む彼の姿。
これもまた、いつもの光景。


「何だ、ではありません! 早く着替えて手伝ってください! 猫の手も借りたいくらいに忙しいのですから!」
「まだ暑い。それにアンヌしかいないのだから、別に服を着る必要もあるまい。」
「また、そのような事を言って。私だって目の遣り場に困ります。それに、もう直ぐデスマスク様が手伝いに来ますよ。そんな格好で良いのですか?」
「デスマスク……。猫の手ではなく、蟹の手を借りるのか?」


全く、もう……。
ああ言えば、こう言う、まるで駄々っ子なのだから、この人は。
本当に困った人だわ。


「で、俺は何をすれば良いんだ?」
「お料理はデスマスク様が手伝ってくださいますから、テーブルのセッティングをお願いします。」


今日はハロウィン。
子供達のように仮装はしないけれど、折角だし、皆で集まって食事でもしようかという話になった。
しかし、飲み会が開かれる度に、何故、いつも会場が磨羯宮なのか。
皆、私に頼り過ぎじゃないかと思う事も多々ある。


「誰が来るんだ?」
「デスマスク様と恋人さん、アフロディーテ様と女官さん、カミュ様と資料室の司書さん、それと、アイオリア様と歩美さんです。」
「ミロのところは?」
「今夜はアテネでお食事らしいですよ。珍しくお断りされました。」
「たまにはサガも参加すれば良いのだが。少し仕事のし過ぎだ。」


そうは言っても、それが半分趣味になりつつあるサガ様に承諾させるのは難しいだろう。
私は苦笑いで応える。
そうこうしている内に、皆より一足先にデスマスク様が姿を現した。
約束通りに準備を手伝いに来てくれた。
何だかんだで律儀な人だ。


「オマエ……、なンでパンツ一枚なンだよ。裸族か? サガの仲間入りか?」
「デスマスク様、もっと言ってやってください。シュラ様ったら、私が言っても、ちっとも聞いてくれないんですから。」
「邪魔臭い、暑い。」
「オマエねぇ。幾らなンでも風邪引くぞ。十月末だぜ、今。」


ああだこうだと言いながら、シュラ様にシャツを引っ掛け、無理矢理にでも服を着せようとするデスマスク様。
抵抗するシュラ様。
飛び交う罵倒と文句の嵐。
こんな光景も、いつもの事。


「蟹の手のクセに、俺に指図するな。」
「あ? 蟹の手ってなンだよ? 俺は蟹座。蟹座の黄金聖闘士様だっつの。」
「煩い。貴様は黙って美味い飯でも作っていろ。」
「あぁ、作るさ。作ってやるさ。だが、テメェには一口も食わせねぇからな、クソ山羊。」


子供のようにじゃれ合う姿に、思わず笑みが零れる。
ここにアフロディーテ様が加われば、もっとカオスになるのだろう。
想像すると、笑いが込み上げてくる。


シュラ様と暮らす毎日、皆と過ごす日常。
積み重ねていく楽しくて明るくて、そして、苦しくて辛くもある思い出達。
この先に、また大きな戦いが待っているかもしれない。
何もかもが今と同じようにはいかないだろう、変わってしまうものもあると思う。
大切な人、友人達、そして自分も、生きているかすら分からない。
でも、胸の奥に刻み込んだ、この沢山の思い出達があれば、きっと乗り越えられる。
どんな困難でも、どんな苦難でも。


だから、シュラ様の傍で、皆の輪の中で、共に笑っていられる時を、大切に、大事に過ごしていきたい。
いつか訪れるだろう別れの時に、後悔する事のないように。


「もう! シュラ様、デスマスク様! 早く準備を始めないと、皆が来てしまいますよ!」



I’m saving all my love for you



‐end‐





五年九ヶ月にも渡る超ロング連載でしたが、長きに渡りお付き合いくださり有り難う御座いました。
本編はこれで完結となりましたが、これからも番外編などを投下する事もあるかと思いますので、この先も、変わらぬ御愛顧を宜しくお願い致します。
取り敢えず、完結して良かった!
そんな本音で締め括りたいと思います。
本当に有難う御座いました!

連載開始:2010.03.12
連載終了:2015.12.23



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