7.辿り着く場所



カミュ様の先導で、静かな廊下を奥へと進んでいく。
コツッコツッと二人分の足音だけが響き渡り、その音が不思議と胸の中で緊張感を増長させた。


「……アイオリア。」
「カミュ。連れてきてくれたのか?」
「あぁ。」


辿り着いた先には、アイオリア様の姿があった。
腕を組んで壁に寄り掛かり、表情は不機嫌そのもの。
いつものように眉間には深い皺が刻まれ、見るからにムスッとしている。


「すまん、アンヌ。こんなに早く君の手を借りなければならんとは。」
「いえ、大丈夫です。歩美さんも不安でしょうし。」
「ココは俺の宮と違って、何人もの女官がいるのだが、どうもな……。」
「慣れない相手よりも、慣れた相手の方が安心なんですよ。今は、色々と不安な時期でしょうから。」
「すまん、本当に……。」


私はアイオリア様を安心させるようにニコリと微笑み掛けてから、彼の横の扉に触れた。


――コンコン、パタンッ。


小さくノックをしてから、返事を待たずに扉を開ける。
目に飛び込んできたのは、部屋いっぱいに差し込む眩しい日光だった。
夏の日差しは薄い窓ガラスを突き抜けて、部屋の中を真っ白に浮かび上がらせる程に強烈だ。
私は何度がパチパチと瞬きをした後、歩美さんのいるベッドへと歩み寄った。


「歩美さん、お加減は如何ですか?」
「そんなに悪くはないわ。」


背後からはパタンと扉の閉まる音。
私の後からは誰も入ってこない。
アイオリア様もカミュ様も、部屋の外で待機しているのだろう。
私が事態を何とかするまでは。
ただ、何も知らされぬまま来てしまったのだから、一体、何が起こっているのか、まだ何一つ知らないのだけれど。


「でも、身体が上手く言う事を聞いてくれなくて、自力ではベッドから下りられないのが難点だけど。」
「それは多分、数日で直ると思います。身体に有り得ない負荷が掛かったせいで、筋肉が固まってしまっているのでしょう。ちょっとした筋肉痛みたいなものです。」
「聞いたわ。何が起こったのか、何があったのか……。女官さんと、あと、アイオリアにも。」


私はベッド脇の椅子に腰を下ろして、歩美さんの手を握った。
どれだけの情報を、どんな風に聞いたのかは分からない。
女官さん達の話は、又聞きの又聞きになるだろうし、アイオリア様はあの性格だもの。
大まかに、大雑把に、起こった事をサラリと伝えたに過ぎないだろう。
自分の関わった彼女の救出劇を事細かに伝えるなど、彼にとっては激しい羞恥を伴うだろうから。


「なのに、アイオリア様は不機嫌を顔に貼り付けて、部屋の外にいる。という事は、また喧嘩されたのですね。」
「だって、アイオリアったら。助けてやったんだから、もっとしおらしく出来ぬのか、なんて言うし。何があったかの説明もロクにないまま、そんな事を言われても、ねぇ?」


つまりは私に事の全て、事件の顛末を説明して欲しいという事。
私をココへ呼んだのも、歩美さんの希望があってのものだったのだわ。


「貴女はその場に居たと聞いたわ。だから、話して欲しいの。聖闘士の、男の人の目線からではなく、アンヌさんの目で見て、感じた事を、全部。」
「……歩美さん。」


そうか、だから……。
言葉足らずのアイオリア様のみならず、表現の巧みなカミュ様の説明ですら納得しなかったのは、そういう事。
私の言葉で、闘う事の出来ない一般人の女性の言葉で、歩美さんは全ての顛末を聞きたかったのだ。
だから、カミュ様を困らせると分かっていても、彼女は我が儘を押し通したのだろう。
でも、今はその我が儘も許される筈。
何故なら、歩美さんには、起こった事の全てを事細かに知る権利があるのだから。





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