――ゴオォォォォッ!


「煩ぇよ、昆虫風情が。今更、咆えても遅ぇっての。足掻いたって無駄だぜ。」
「デスマスク、サポートする! お前はアレを分離させる事だけに集中しろ!」
「おう! 頼んだぜ、サガ! 喰らえ、積尸気冥界波っ!」


――バシュッ!


デスマスク様の右手の人差し指が青く光った。
そう思った瞬間に、その指の先から、強烈な光が放たれて、真っ直ぐに鬼神へと突き刺さった。
相手が人間であれば、この一撃で、身体と魂が分離してしまう。
身体はただの屍と成り果て、魂は積尸気へと送られる。
つまり、それは死の国への霊送りだ。


しかし、小滝から多くの聖闘士や聖闘士見習い達が残した残留小宇宙を吸い取り、そして、今、禊ぎの泉からアテナ様の小宇宙の気配の残る水を吸収した邪悪な鬼神の魂は、そう簡単に身体から引き離される事はなかった。
正確に言えば、鬼神自身の身体ではなく、憑代とした歩美さんの身体からの分離。
相手が神だからなのか、それとも、憑依を解く事を目的としているからなのか、そう容易くは事が進まない。


「チッ、やっぱりか。楽な仕事じゃねぇだろうとは思ってたが、予想以上にしぶてぇなぁ、コイツ。昆虫のクセしてよ。」
「デスマスク。いけそうか?」
「ちぃっとばかし手間取りそうだが、やれねぇ事はないだろ。結構な重労働にはなりそうだがなぁ。」


――グオオォォォッ!


デスマスク様の人差し指から放たれ続ける青い光。
それを受けて苦悶の絶叫を上げる鬼神。
凍り付いた泉に立つ歩美さんと、その身体から追い出されて苦しみもがく半透明の巨大なアメンボ。
それでも歩美さんと鬼神は、まだ細い糸状に伸びた生命線で繋がっている。
あれが、あれさえ切れてしまえば、歩美さんは助かるのに……。


「クッ! グオォッ! オラ、とっとと吹っ飛ばされろ! この化けモンがっ!」
「デスマスク、早くしてくれっ! これ程に暴れられたら、もう凍気の拘束が持たぬ!」
「煩ぇっ! 今、ヤツの魂トバすから、それまで何とか持たせろ、カミュ!」


まるでミシミシと骨が軋む音さえも聞こえてきそうだ。
鬼神に突き付けるデスマスク様の人差し指が圧力でしなり、凍気を放出し続けているカミュ様の腕が限界を前にガクガクと震え出した。
早く決着が着かないと、お二人の身体の方が先にどうにかなってしまいそうな気さえする。
それ程までに、抗いもがく鬼神の反発する力は巨大だという事なのだ。
そう、次の一瞬で、デスマスク様が力尽きれば、歩美さんから鬼神を引き離す事は不可能になる。


「うおりゃああぁぁ!」
「デスマスクッ!」


――オオオアアァァァッ!!


「クッ、余波がここまで! アンヌ、私の後ろから動かず、しっかりと掴まっていなさい!」
「は、はいっ!」


お願い、上手くいって!
ビリビリと響き渡る鬼神の咆哮が周囲を包む中、ムウ様の背後から、祈るように両手を合わせて見ていた、その時。
最後の高まりをみせたデスマスク様の小宇宙が、大きな光の輪となって、鬼神の巨体へとぶつかっていった。





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