「そうだな……。ならば、私はココに残ろう。」


それまで、ずっと黙って成り行きを見守っていたアフロディーテ様が、何かを決意したかのように、ゆっくりと言葉を紡いだ。
ハッと息を飲む者、黙って言葉の続きを待つ者、それは様々だが、シュラ様は黙ったまま、切れ長の瞳を少しだけ見開いた。


「いくら緊急事態とはいえ、我等全員が十二宮から出払ってしまう訳にはいかないだろう。不測の事態に備えて、私はココに残る。双魚宮と教皇宮の間、それにアテナ神殿の周囲に薔薇の陣を敷こうと思うのだが、構わないだろう、サガ。」
「あぁ、是非とも頼む。お前が残ってくれるのなら安心だ。」
「すみません、アフロディーテ。本来なら第一宮を守護する私が自宮に残り、十二宮の守りを固めなければならないというのに……。」


キュッと眉間が寄り、ムウ様の柔らかな相貌が、申し訳なさに歪む。
それを見て、アフロディーテ様は小さく肩を竦めてみせた。


「ムウ、キミが頭を下げる必要はない。適材適所、人にはそれぞれの役割があるからね。」
「相手が神ならば、防御技を使える者が加わるに越した事はない。だが、同じ防御でも、アフロディーテの技では味方にまで危害が及ぶ可能性がある。」
「その通りだ、シュラ。」


だからこそ彼はココに残り、十二宮の守りを固める側に徹した方が良いと判断したのだろう。
人を選んで防御出来るクリスタウォールと違い、毒薔薇による防御は、敵味方関係なく神経を麻痺させてしまう。
アフロディーテ様の選択は、多分、今の状況では一番正しい。


「そうか……。ならば、アイオロス。お前もココに残れ。」
「何っ?! それは、どういう意味だ、サガ?!」
「どういうもこういうもない。そのままの意味だ。教皇不在の今、補佐の任にある我等が、二人共に戦闘現場に出向くのは問題がある。どちらかが残って、全体の指揮を執る必要があるだろう。他に何も問題が起きないとも限らないしな。」
「だったら……。」


サガがココに残るべきだ。
アイオロス様が、そう言い欠けたのは、その場にいた誰の目にも明らかだった。
だが、その言葉を制して、先にサガ様が口を開いた。
まるで、アイオロス様に話す隙を与えまいとしているかのように。


「現場に出ていきたいとの気持ちは分かる。お前の性格上、教皇の補佐だろうが何だろうが、最前線で戦ってこその聖闘士なのだろうからな。だが、今回ばかりは、それを黙って見送る訳にはいかない。」
「……何故だ?」


緊迫した空気が流れる。
睨むようにサガ様を見据えるアイオロス様と、それを涼やかに受け流して言葉を紡ぐサガ様。
二人の間にピンと張り詰めた見えない糸、それを感じ取り、その場に居る誰もが身動き一つ取れなくなってしまう。


「お前が行けば、事態が悪化する可能性が高いからだ。アイオリアの神経を逆撫でするようなものだぞ。昨夜の事を忘れた訳ではあるまい。」
「…………。」
「心配も不安も大いにあるだろうが、ココはお前の弟に、アイオリアに任せてやれ。それにな。能力的な事を考えても、お前より私の方が適任だと思うぞ、今回に関しては、特に。」


アイオロス様は何も答えなかった。
暫く、その鋭い瞳でサガ様の顔をジッと眺めた後、一つの言葉も返さないまま、黙って自身のデスクに戻っていった。
それが彼の答えだった。


サガ様の口元がホンの少しだけ、フッと緩む。
それを合図に、動きを取り戻したシュラ様達は、一斉に部屋を飛び出していた。
向かう先は、アテナ様の禊ぎの泉。
私はシュラ様の腕に横抱きにされた状態で、彼の首にしっかりと腕を回し、訪れる疾走の衝撃に備えた。



→第4話に続く


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