「どうだった?」
「残念だが、こっちは気配も痕跡もなかったぞ。」
「私の方もです。」


三十分後。
一度、獅子宮へと戻ってきたシュラ様達が、それぞれの捜索結果を報告し合っていた。
だが、誰も有益な情報を持って帰ってきた者はなく、それを聞くアイオリア様の表情は、ドンヨリと暗い。
もう一度と、直ぐにも宮を飛び出していきそうな彼を押し止め、ムウ様が私に視線を向けた。
気が急いているためか、明らかに苛付いているアイオリア様の表情が、私を見た瞬間に僅かに緩み、その目に期待の光が浮かぶ。


「あの、アイオリア様。これを……。」
「っ?! これは!」
「どうしたんだ? それは一体?」


私が差し出したのは、先程、ベッドの上で発見した銀の羽根のお守り。
アイオリア様が、やや強張る指先で、その小さな装飾を摘み上げる。
それを見て、私はそっと手を引っ込めた。
説明を求めるシュラ様の視線を感じ、私はそれがどういうものなのか、手の平の上の羽根飾りを凝視するアイオリア様の顔色を窺いながらポツポツと語った。
歩美さんが、それをとても大切にしていたという事も含めて。


「それがベッドの上に落ちていた、というのか?」
「はい。でも、どんな事があっても、歩美さんは、それを無くしたりはしない筈です。彼女にとっては大切なお守りであり、一番の宝物でしたから。」


それがベッドの上に残されていたのであれば、歩美さんは眠っている間に何かの事件に巻き込まれた可能性が高い。
ずっとリビングに居たアイオリア様は、そんな事は有り得ないと主張するだろうけれど。
でも、やはり歩美さんの部屋の状態、残された羽根飾りを見るに、この失踪が彼女自身の意思ではないと思えるのだ。
人為的なものではない、何か別の『力』が働いた事による失踪事件。
それなら、アイオリア様に気付かれずに、何事かが起きてもおかしくはない。
ただし、ココがアテナ様の結界内、聖域という外部からの進入が極めて困難な場所である事を思えば、非常に不可解ではあるのだが……。


「アンヌ。すまないが、これは君が預かっていてくれないか?」
「え、でも……。」


一度、アイオリア様の手に渡した銀の羽根飾りが、再び、私の手へと戻される。
でも、これは歩美さんの一番大切な宝物。
アイオリア様が持っているのが最良だと、私は思うのだけれども。
手の平の上の小さな小さな羽根を見て、それから、眉をギュッと寄せたままのアイオリア様を見上げた。
目が合うと、小さく頷いて、肩をポンと一つ叩かれる。


「彼女が大切にしてるのなら、尚更、アンヌに預かっていて欲しい。そんなにも小さな飾りだ。俺が持っていたら、アチコチ探し回り、走り回っている間に、何処かで落としてしまうかもしれない。」
「それに……、まかり間違って戦闘にでもなってしまえば、壊れてしまう可能性も出てくるからな。」
「っ?!」


シュラ様の一言に、ゾッと悪寒が背中に走る。
そんな事が有り得るの?
戦闘を伴うような事態が、起こるかもしれないと?
ギョッとして、思わずシュラ様の顔を凝視した。
だが、そんな反応を見せたのは私一人で、ムウ様も、アルデバラン様も、ただ小さく視線を逸らしただけだった。
つまりは、皆が同じような考えを持っているという事。


「この失踪が彼女自身の意思ではない、何らかの事件に巻き込まれたものだというのなら、それを仕組んだ者との対峙は避けられないでしょう。」
「相手の力量にもよるが、アイオリアに気付かれぬよう事を運んだとなると、只者ではないと判断出来る。相手は人ですらないかもしれない。」


ムウ様とアルデバラン様の説明に、私は言葉を失った。
そんな私の肩を、もう一度、軽く叩くと、アイオリア様は羽根飾りを乗せていた私の右手を包み込むように、両手でグッと握り締めた。
それは「頼んだ。」と、そう言っているようでもあった。



→第2話に続く


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