自宮で待機など、アイオリア様が大人しく従う訳がない。
実の兄であるアイオロス様なら、彼の気性を熟知している筈なのに。
そうと分かっていながら、何故、そのような命を下したのだろう。
ただ、あのゾッとする程に勘の鋭いアイオロス様の事だ。
何か考えがあっての事なのだろうとは思うけれども……。


「黙って自宮で待っていたところで、何にもならない、どうにもならない、といったところか?」
「確かに、アイオロスには何か思うところがあるのかもしれん。ただ、待機で時間を無駄に潰すよりは、多少でも自分達で捜索をした方が、何か得る事もあろう。そう考えているのだな、アイオリア?」
「あぁ。それに意図しない敵が、彼女には沢山いる。放ってなどおける訳がない。」


この真っ直ぐな意志の強さ。
アイオリア様らしい愛情の深さと優しさ。
例え、今の関係が上手くいっていなくとも、共に過ごす相手への思い遣りを決して忘れない。


そんな彼の姿を見ていると、歩美さんがアイオリア様に惹かれたのは必然だったのだと思える。
故郷を離れた遠い異国の地。
父親や仲間達と一緒だったとはいえ、慣れない発掘現場、慣れない作業、慣れない気候。
不慣れな言語と食事、戸惑うばかりの生活環境。
そんな中で出逢ったアイオリア様の強い意志は、まるで太陽の如くに彼女の世界を照らしたに違いないのだ。
眩しくて、それでいて、暖かくて、穏やかで。
ただそこに居るだけで、歩美さんの不安を全て取り除いた。


「アイオリア。彼女の向かいそうな場所に、心当たりはないのか?」
「好きな場所、気に入っている場所、何でも良い。何処か思い付かないのか?」


フルフルと頭を左右に振り、アイオリア様の金茶の髪が柔らかに揺れた。
ずっと握り締められたままの両手には、青く筋が浮かんでいる。


「彼女はココにきて、まだ日が浅い。それに、あの怪我だ。一人では何処にも行けなかったし、俺が連れていってやろうにも、連日、雨が続いていたから……。」
「それは、そうだな……。」


獅子宮の外に出る事すら稀だった。
精々リハビリを兼ねて宮の周囲をグルグルと巡る程度。
勿論、あの長い階段を、自分だけの力では上る事も下りる事も出来ない。


「そうなると、この広大な敷地の中を、当てもなく探さなければならないという事か。」
「中々に厄介そうだ。」
「……すまない。」


だからといって、この聖域内を当てもなく捜索するなど、あまりに途方もない話。
せめて、ちょっとした事でも良い、何か取っ掛かりになるものがあれば。
歩美さんの好むものや、心惹かれる事、何かないのかしら……。


「あの、例えば日本に関係する場所とかは、どうでしょう?」
「日本……。そうか、日本か。」
「成程、彼女は長らく日本を離れている。郷愁を感じていてもおかしくはない。特に……。」


特に、彼女は日本へと二度と戻れぬ身。
ならば、余計に日本への恋しさが募っている事だろう。


「しかし、日本に関係する場所など、聖域内にあったか?」
「教皇宮の裏の庭園、そこに一部、日本の植物が植えられている一画がある。アテナが日本人である事を思えば、他にも日本に関連したものが何かしら有りそうだな。」
「なら、その辺りを中心に、手分けして探そう。」


シュラ様とカミュ様が目を合わせて頷き合えば、アイオリア様のグリーンアイズが、少しだけ希望に輝いたように見えた。





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