「如何でしょうか、シュラ様。」
「あぁ、大丈夫だ。これで良い。」


調整の終わった指輪を嵌めて、その感触を確かめるシュラ様。
普段、指輪などする事がないからか、何処か落ち着かない様子で指を折り曲げたり、手を握ったり開いたり、指輪をクルクル回してみたりしている。
そんな彼の姿が少しだけ可愛らしく見えて、私はクスリと小さく笑んだ。


「お会計は?」
「このカードで頼む。」
「あ、駄目です、シュラ様っ!」


財布からカードを取り出そうとする彼の行動を、慌てて止めた。
今回は私が払う、そう約束した筈。


「私が払いますから。」
「だが、アンヌ……。」
「シュラ様の指輪は、私が買うという話だった筈です。だから、私が払います。」
「しかしな……。」


静かなお店の中での、ちょっとした押し問答。
店員さんは、決して態度にも顔にも出さないけれど、気持ち困惑気味だ。
恥ずかしいという気持ちもあれど、だからといって、譲る気もない。


「分かっているとは思うが、高いぞ。社員割引とはいえ。」
「だから、シュラ様はグラード財団の社員じゃないでしょう。それは兎も角、私が払います。お値段は関係ありません。」
「強情だな、お前も。」


強情だと言われようと、譲れないものは譲れない。
そもそも、シュラ様が危惧するような、お金の心配はないのだ。
今でこそ、既に女官ではなくなってしまった私だけれど、つい先日までは、きっちりとお給金を頂いていた身。
しかも、特別手当がある分、他の宮付き女官よりも収入は多い。


衣食住付きの職場、浪費癖でもなく、これといってお金の掛かる趣味もない。
仕送りをする家族もいない。
となれば、お金は貯まる一方で、減る事もない。
そんな訳で、使い道のないお金を六年間も貯め込んだ私は、実は小金持ちだったりするのだ。


「今使わずして、いつ使うのですか。このお金は、シュラ様のために使わせてください。」
「本当に強情だな、アンヌ。まぁ、良い。今回はお前の我が儘を聞いてやる。」
「ありがとうございます。では……。」


シュラ様がご自分のカードを財布の中に仕舞い込むと同時に、私は自分のカードを店員さんに差し出して、支払いを進める。
その間、シュラ様は店内をウロウロとして、何かを探しているようだった。


「首から下げるチェーンはあるか?」
「ネックレスですか? それならあちらに。」
「材質は問わん。出来るだけ頑強なものが良い。」
「それでしたら、こちらがお勧めです。」


支払いを済ませた私が、彼の傍へと近付けば、数種類のネックレスを手に取って、長さや頑丈さを確認しているところだった。
そういえば、任務や修練の時など、指に嵌めておけない時のために、ネックレスを使って首から下げれば良いと提案したのは、私だったっけ。
自分で言っておいて、忘れてしまっていたなんて……。


「これは俺が自分で買うぞ。そこまで、お前に甘える訳にはいかん。」
「分かりました。」
「意外にアッサリ引いたな。」
「私は、シュラ様が言う程に強情ではないですから。」


強情に言い張っても、良い事がないくらいは十分に分かる。
ここはシュラ様の顔を立てておかなければね。
この後、不機嫌で手が付けられなくなるのも、目に見えているもの。


「ゴールドの……、これで頼む。」
「畏まりました。」


お会計が終わるまでの少しの間。
隣で見上げたシュラ様の表情が満足そうに見えて、私はホッと安心したのだった。





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