「……さん。アンヌさん。」
「わっ! す、すみません。ボンヤリしていました。」
「ふふっ、やっぱりアンヌさんも気になる?」


微笑んだ歩美さんが指で示す方向には、何やら話し込むシュラ様とアイオリア様の姿。
これが女の子同士の会話であれば、いつものヒソヒソ話かと、興味すら湧かないのだけれども。
不思議と素晴らしく見た目の宜しい男性二人の会話になると、何だかとっても気になってしまう。


「どうせ私の愚痴でも言っているのよ、きっと。『相変わらず文句ばかりだ。』とか、『可愛げがなくてイラッとする。』とか。」
「そんな事はないと思います。アイオリア様は、誰かの事を、それが女性であれば余計に、悪く言ったりなんてしない方ですから。」


確かに、アイオリア様は私に向かって、歩美となかなか心を開けない、衝突してばかりだと、零した事もあった。
だけど、それは文句や不満ではなく、歩美さんに対する強い心配の表れであり、彼女と上手く接する事が出来ない自分自身への苛立ちのようなものに感じられた。
アイオリア様は、根が何処までも優しい方だ。
慣れない女性との共同生活に、シュラ様も仰っていたように、強い困惑と大きな戸惑いを抱えて、どうして良いのやら分からなくなっているだけなのだと思う。


「だから、あの小声の話し合いは、何か別の事だと思います。」
「そうなの? 例えば?」
「今度の任務に関する事とか。きっと私達が聞いてしまうと、吃驚したり、不安になったりするくらいの危険な情報が混じっているのかもしれないです。それでワザと声を抑えているのかな、と。」
「だからアンヌさんは、そんなに気にしていたって訳ね。彼の身に何か起きたらと思うと、心配でしょう?」


コクリと頷くと、歩美さんはニコリと笑って、何故か私の頭をポンポンと撫でてくれた。
母親以外の女の人に、こんな風に髪を撫でられたのは初めてだったど、不思議と心の中がポカポカと暖まってくる。
ポカンと彼女の顔を見ている間に、男同士の話が終わったのか、シュラ様とアイオリア様が、こちらへと近付いてきた。


「話は終わったか?」
「それは、こっちの台詞。貴方達こそ、コソコソ話は終わったの、アイオリア?」
「べ、別にコソコソ話など、何もしてはいない。」


そうは言いつつも、アイオリア様の声はくぐもっている。
しかも、言うと同時に、私の顔をチラと見遣った、その視線。
それのせいで、彼等の話の内容が、やはり今度の任務に関わる事なのだと、ハッキリと分かってしまった。
本当にアイオリア様は、良くも悪くも分かり易い人だわ。


「買物の話は済んだのか?」
「あ、ちょっと待って。今、メモを渡すから。」


歩美さんは慌てて近くのメモ用紙を引き寄せ、サラサラと走り書きしていく。
そして、綺麗に四つ折りされたメモを手の中に押し込まれる。
「別に無理して探さなくても、売ってないようだったら、諦めて良いからね。」と念を押された後、追い立てるようにプライベートルームから外へと追い出されてしまった。


しかも、外に出ると直ぐに、シュラ様に腕の中へと抱え上げられてしまって(今でも物凄く恥ずかしくて慣れないのだけれども)、そのメモを見る暇もなく、アテネ市街へと出発する事になってしまった。
後はただ、そのスピードに意識を持っていかれてしまわぬように、シュラ様の身体にしがみ付くばかりだ。





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