シュラ様の腕の中は、とても心地良かった。
ギュッと抱き締める腕は、私の身体をしっかりとホールドして、寝心地の良い体勢をキープしてくれる。
そして、顔を埋めた胸の奥からは、力強い心音が一定のリズムで聞こえてきて、それが不思議と強い安心感を与えてくれる。
夏の夜だと言うのに、蒸し暑さをまるで感じさせない心地良さが、そこにはあった。


「……良い匂いがする。」
「え?」


不意に、私の髪に顔を埋めていたシュラ様が、ポツリと呟いた一言。
私は少しだけ驚いて、接していた胸から顔を離し、彼を見上げるよう視線を上げた。
暗闇の中、腕の中の私をジッと見下ろすシュラ様の暗い瞳だけが、光り輝いて見える。


「お前の身体から良い匂いがしてくる。いつものアンヌとは違う匂いだ。」
「あぁ、それなら……。」


シャワーの後に身体に塗っているボディーミルクの香りだろう。
夏は日焼けの止めの影響で、肌が乾燥しカサカサになるので、毎晩、欠かさず塗っているのだ。
香りの効果でリフレッシュにもなるので、ずっと愛用している。


「朝になれば、香りは薄れてしまいますが、今は塗ったばかりなので強く感じるのでしょう。」
「これはオレンジの香りか? スッキリと爽やかでいながら、女らしい甘さも感じる。」
「夏なので柑橘系が良いかと思って、少し前から、この香りに変えたんです。お嫌でしたか?」
「いや、良い。俺は好きだ。」


そう言って、抱き締める腕の力を強めたシュラ様は、再び私の髪に顔を埋めた。


いや、それよりもシュラ様!
お腹の辺りに何か当たってるんですけど!
腕の力が強まって、より密着したせいで、否応なくソレが感じられて、私は少し距離を取ろうともがいたのだが、流石に黄金聖闘士の腕力。
私などが、ちょっと暴れたくらいではビクともしない。


「し、シュラ様?」
「ぐ〜……。」
「へ?」


ビクともしないと言うか、ピクリともしないので、おかしいとは思ったけれども、まさか、もう寝てしまったの?
埋まっていた彼の胸から顔を上げ、恐る恐る見上げる。
暗闇に目を凝らせば、既に目を閉じているシュラ様の口元からは、スースーと寝息が聞こえていた。


やっぱり、もう寝ている……。
何という寝付きの早さだろう。
先日の飲み会の時は、かなり酔っていたから、アルコールのせいで、あっと言う間に寝落ちたのかと思っていたけど、そうじゃなかったんだわ。
シュラ様は元々、物凄く寝付きが良いのね。


何だか、緊張して損した気分……。
いやいや、何かあったら困るのは私なのだから、これで一安心なのだけれども!
襲われる心配もなく、ゆっくりと眠れるのだから、良いのだけれども!


私は再びシュラ様の胸に顔を埋めた。
彼の腰に腕を回して、ギュッと抱き付く。
温かな肌の温もりと、押し当てる胸の内側から聞こえる力強い心音。
私は最上級の心地良さに包まれて、ゆっくりと目を閉じた。



→第6話へ続く


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