――コンコンッ!


ノックの音に続き、私の返事を待たずしてシュラ様が扉を開いた。
以前なら、そんな無作法な事はしなかったのに、今夜はどうしたのだろう。
気が急いているのか。
それとも、もう恋人同士なのだから、そんな遠慮は無用という事か。
兎に角、部屋の中の私が、どんな状態であるかなど気にせずに、ガチャリと扉を開けた彼は、だが、そのままドアノブを握り締めて動きを止めた。


「シュラ様?」
「ん? あ、あぁ、すまない。スッピンのアンヌを見るのは初めてで、つい……。」


私は普段、そんなに濃く派手なメイクはしていない。
だが、流石にノーメイクというのも失礼に当たるので、ほんのりと薄くお化粧をしている。
自分じゃ殆ど変わらないと思っていたけど、シュラ様が吃驚するくらい、印象が違ってたのかしら?


「あまりに違ってて、驚きました?」
「いや、そうじゃない。アンヌの、こういう自然な姿を見れるのは、何というか、凄く良いものだなと思ってな。恋人同士という感じが、強くなった気がする。」


言われてみれば確かに、男の人は、そう感じるのかもしれない。
でも、こんなに美男子でモテるシュラ様が、こういう事を言い出すのは、ちょっとだけ不釣合いな気がして、思わず小さな笑みが零れた。


「何だ、その笑いは?」
「いえ、シュラ様がこんな事に感動しているだなんて、ちょっと新鮮だなと思いまして。」
「俺にとっては、こういうシチュエーションそのものが、新鮮なんだがな。」
「え?」


こういうシチュエーションが新鮮という事は、今まで、こういった経験がなかったと、そういう事?
初めてこの宮に来た時の、あのお部屋の惨状を思えば、長らく恋人がいなかったのは容易に想像が出来るけれど、だからといって、過去に一人も恋人がいなかったとは考え難い。


「そうか、言ってなかったな。俺の恋人いない歴は二十三年だ。」
「に、二十三年っ?!」
「そんなに驚く事か?」
「だ、だって!」


恋人いない歴二十三年って事は、生まれてこの方、女性とお付き合いした事がないって意味でしょう?
驚くに決まっている。
まさか、黄金聖闘士で、超絶格好良くて、クールでスマート(な見た目)なシュラ様が、お付き合いの経験が一回もないなんて、そんな事、あって良い筈がない。


「前にも言ったと思うが、付き合うに値する女が見つからぬうちに、お前に出会ってしまった。それから六年、俺はアンヌだけを見ていたと言って良い。」
「シュラ様……。」
「女を知らない訳ではないが、今はお前以外の女は抱きたいとも思わん。それどころか、他の女には全く欲求を感じないのでな。付き合うどころの話ではあるまい。」


何と言えば良いのか……。
嬉しいような気もするし、不安な気持ちもしてくるし、凄く微妙な感じ……。
そして、こんなにも満々に期待を抱く彼を、ガッカリさせてしまったらどうしようという、プレッシャーも湧き上がる。
だけど、誰もが憧れを抱くような、この素敵なシュラ様が、こんなにも一途に思っていてくれるのは、やはり嬉しい事で、私の顔には無意識のうちに照れ笑いが浮かんでいた。





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