――パタンッ。


部屋に入ると、急速に現実に引き戻される。
静かな部屋、窓から差し込む強い日差し、テーブルに置きっ放しの雑誌。
ただ壁に掛けられた時計だけが、コチコチと時を刻む音を奏でて動いている。


何だろう……。
この閉ざされた扉の内側だけ、時が止まっていたような感覚。
私達が出て行った時から、ピタリと全てが制止してしまい、今、私が扉を開いた瞬間に、止まっていた時が、また動き出した、まるでそんな雰囲気だ。


これまでの喧騒が嘘のように、静かな部屋、静かな時。
私は息を吐く事すら悪い事のように感じて、無意識に溜息を堪えていた。
柔らかな空気、夏の暑い室温、フワリと漂うシュラ様のいつもの石鹸の香り。
何もかもが、普段と全く変わりないのに、何処かが違っているような気もする。
でも、それが何なのか分からなくて、モヤモヤした気持ちにもなる。


変わらずコチコチと音を上げている時計を、ノロノロと見上げた。
時刻は午前十一時に程近い。
あぁ、もうこんな時間なんだわ。


私はテーブルに置きっ放しの雑誌をラックに片付けると、キッチンへと向かった。
そこには作り掛けの朝食が、手付かずのまま残っていた。
用意をしている最中にデスマスク様が現れたから、シュラ様も私も朝食を食べずに慌てて出掛けてしまったんだっけ。
色んな事があり過ぎて、食事を摂らなかった事さえ忘れていたわ。
お腹が空きもしなかったから、思い出す事もなかった。


私は作り掛けの朝食をアレンジして昼食にする事にし、急いで準備を始めた。
お掃除やお洗濯をしていない事も気になったが、それは午後からでも出来る。
今は、お腹を空かせて戻ってくるだろうシュラ様のために、美味しい食事を用意する事が最優先。
彼も朝食抜きだったし、きっと「腹が減った。」とボヤキつつ、帰ってくるに違いないのだ。


冷凍庫に保存しておいたミートソースがあるから、メインはパスタにしよう。
作り掛けのサラダは、そのまま出せるわね。
卵は茹で途中で火を止めざるをえなくて、仕方なく冷水に沈めておいたから、きっと半熟くらいにはなっている筈。
これをミートソースに乗せれば良いんじゃないかしら。
デザートは作る暇がないから、オレンジを切り分けるだけにしよう。
よし、これで昼食は大丈夫そうね。


そうして、一心不乱に料理に取り掛かった私。
パスタが、あと少しで茹で上がるといったところで、遠くからパタンと扉の開閉音が聞こえた。
今朝は色々とあったから、お昼は戻ってくるのが遅くなるかもしれないと思っていたけれど、それは杞憂に終わったようだ。
まさにパスタが茹で上がる絶好のタイミングでの、シュラ様の帰宅だもの。


キッチンの時計を見上げる。
時刻は十二時を五分ほど過ぎていた。





- 6/8 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -