窓から差し込む柔らかな朝の光を受けて、未だ戸惑いを隠せない様子の彼女。
私はベッド横に置いてあった、多分、先程までアイオロス様が座っていただろう椅子に腰を下ろした。
そして、彼女の消えない不安と戸惑いを少しでも和らげるため、ニッコリと微笑んでみせた。


「これから、この聖域で生活していく上で、必要なものも沢山あるでしょう。この宮を守護するアイオリア様には、従者の方がお一人、仕えていますが、彼は男性ですから、言い辛い事もあると思います。そういう時は、私を頼ってください。私に出来る事であれば力になります。」
「そうですか。有難う御座います。では、お言葉に甘えさせてもらいますね。」


それから、彼女は早急に必要なものを幾つか上げた。
まだ暫くはベッドから下りれないので、メイク道具などは必要ないだろうと、必要最小限のスキンケア用品を一式。
それと、衣類や下着は、ココに来る時に少しだけ用意して持ってきてはいたが、やはりサイズが少し合わない様子。
正確なサイズと好みを教えてもらい、後日、私が買物に出掛ける際に、一緒に購入してくる事を約束した。


「シャンプーや石鹸も、まさかアイオリア様の使ってるものと同じという訳にはいかないですよね。女性向けのものを用意するように、ココの従者さんに言っておきますね。」
「すみません、何から何まで。」
「いえいえ。歩美さんは怪我で自由には動けませんし、聖域は不案内なのですから、不安になるのは当たり前です。でも、こうして近くに女性がいると分かれば、少しは安心でしょう?」
「えぇ、そうですね。確かに。」


それまで酷く不安そうな顔をしていた彼女が、フッと肩の力を抜く。
まだ、戸惑いの色は消えていないが、その顔に苦い笑みが浮かび、少しは気が楽になってきたのだと分かった。


「私は、住んでいる宮が遠いですから、あまり頻繁には顔を出せませんが、他にも女性は何人かいますし。ココの一つ下の宮を守護するデスマスク様の恋人さんにも、話をしておきますね。きっと力になってくれると思います。」


と言ってはみたものの、未だ彼女は家出中で、いつ戻ってくるかはしれない。
ここはデスマスク様に言い聞かせて、彼女が戻ってくるよう、早く謝りに行ってもらうしかないわね。


「どうだい? 話は進んだかな?」
「あ、アイオロス様。はい、大体は終わりました。」
「そうか、それは良かった。やはりアンヌに居てもらって助かったよ。」


頃合を見計らって、ひょっこりと部屋に顔を出したアイオロス様は、ほがらかな笑顔で会話に加わってきた。
その柔らかな物腰、にこやかな笑顔に釣られ、自然と私達の顔にも笑みが浮かぶ。
でも、多分これは、彼女を安心させるための見せ掛けの笑顔、見せ掛けの和やかさだ。
そういう『演技』が自然に出来る、それがアイオロス様の武器であり、怖さであり、そして、実直で裏表のない弟のアイオリ様とは決定的に違うところだと思った。





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