二人がシャワーを浴びているうちに、私は焼き上がったムサカをダイニングに運んで、テーブルを整えていた。
そこにフラリと入ってきた人影が視界の片隅に映り、私はお皿を手にしたまま顔を上げる。


「あ、お疲れ様でし――、あれ?」
「どうしたアンヌ?」


どうやら先に出てきたのはアイオリア様だったらしい。
てっきりシュラ様だと思い込んで声を掛けたので、彼の姿を見て思わずキョトンと目を丸くしてしまう。
首から下げたタオルでガシガシと髪を拭う仕草は、どことなくシュラ様に似てはいるが、水に濡れた事で癖の強くなった髪は、シュラ様の黒髪とは正反対のキラキラ光る金茶色だ。


「あ、いえ。シュラ様かと思ったので、驚いてしまって……。」
「俺とシュラじゃ、全く似てないだろうに。変だな。」


クスクスと笑うアイオリア様に、もう一度、目を丸くする私。
彼が、こんな風に屈託なく笑うのは珍しい。
聖戦前のように常に堅い表情をしてる訳ではないが、いつも何処か遠慮気味で、未だに笑い方がぎこちないのだ。
だから、そんな柔らかな笑顔を目の前に、思わず私も釣られてしまって、自然と笑みが零れた。


「アイオリア様が黒を着るとは思いませんでした。」
「あぁ、これか。置いてあったのを、適当に着てきたのだが……。」


シュラ様とアイオリア様がシャワーを浴びている間、私は脱衣所に二人分の着替えを用意していた。
勿論、どちらもシュラ様の服だ。
汗濡れになったアイオリア様の服は現在、洗濯機の中。
それが乾くのにも時間が掛かるだろうから、そのまま裸、もしくはタオル一枚で過ごされては困る。
私が困る、目のやり場に凄く困る。
そんな姿でうろつき回るのは、シュラ様だけで勘弁して欲しいというもの。


という訳で、シュラ様に文句を言われそうだと思いながらも、私は二人分の着替えを脱衣所に揃えておいた。
一組は、黒いポロシャツと淡いグレーのハーフパンツのセット。
そして、もう一組は白いTシャツと黒のハーフパンツのセット。
体型的には然程変わらない二人。
シュラ様の方が腰周りは細そうだが、着られないという事はないだろうと思い、サイズは気にせず適当に選んだのだけど。
当然、アイオリア様は白いTシャツの方を着るとばかり思っていた。
そのせいもあって、黒いポロシャツ姿の彼を、シュラ様と見誤ってしまったのだ。


「やはり、俺にシュラの服は似合わないかな?」
「いえ、そんな事ないです。とてもお似合いですよ。」


アイオリア様が黒い服を着ている姿は、殆ど見た事がない。
だからなのか、とても新鮮に映る。
濡れた金茶の髪が黒いポロシャツに映えて、普段はあまり見られない大人っぽさすら醸し出されている、ような気がする。
いつも彼の事を『可愛い』と思う事が多いけど、今のアイオリア様は仄かな色っぽさで大人びた雰囲気までもあるような……。


「そうか、有難う。何だか照れるな、アンヌに褒められると。」
「アイオリア様は元がとても素敵なのですから、きっと何をお召しになっても似合うと思います。」
「流石に、それは言い過ぎだろう。」


若干、頬を赤く染め、照れ笑いを浮かべながら、席に着くアイオリア様。
そんな彼の様子に思わず微笑んだ私が、クルリと向きを変えた、その時――。


「あぁ、言い過ぎだな。確かに言い過ぎだ。」
「きゃっ?!」


振り返った直ぐそこに、不機嫌極まりない仏頂面で私を見下ろすシュラ様がいて。
私は驚きで、文字通り飛び上がっていた。





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