「俺が戻ってくるまで、ココにいるんだぞ。大人しく寝て待っていろ。」


そう言って、シュラ様が部屋を出て行ったのと同時に、私は大きな溜息を吐いた。
それは安堵の溜息。
シュラ様と共にいると、心臓が何個あっても足りない気がする。
いつもいつも、寿命が縮まりそうな事ばかりに遭遇して、慌てたり戸惑ったり翻弄されたりしているのだもの。


「寝ていろとは言われたけど、大人しく寝てなんていられないわよ、ね……。」


ベッドの上に身体を起こすと、部屋の中を見回した。
私の服はデスク前の椅子に引っ掛けられていたが、シュラ様自身が着ていた服はといえば、いつも通り床に脱ぎ捨てられて散乱している。
デスクの上には持ち帰ってきたのだろう書類の束が無造作に積まれ、床には衣服の他にペットボトルなども転がっていた。


これを見てしまったからには、大人しく寝てるなど宮仕えの女官としては絶対に無理だ。
この有様を看過して平然と寝てられるような神経を、私は持ち合わせてはいない。


ベッドから下りた私は、急いで服を身に着けると、部屋の中を簡単に片付けてから、自分の部屋へと向かった。
部屋に備え付けの小さなシャワー室で手早くシャワーを浴び、洗濯済みの女官服に着替えると、そそくさとリビングへ向かう。
シュラ様の自室があの状態だったからには、リビングはもっと凄い事になっているに違いない。
だって、ものの数十分でテーブル回りを素敵に散らかしてくれるシュラ様だもの。
昨日の帰宅後から今までの時間を考えると、きっとまた有り得ない程にグチャグチャになっている可能性が高いだろう。


「あ……、れ?」


嘘、全然、散らかってない?
リビングは、私が最後に見た昨日の昼の状態から、何も変わっていなかった。
ただソファーの背もたれに、シュラ様が脱いだシャツが無造作に引っ掛けられているだけだ。
もしかしてシュラ様……、昨日はリビングにはあまりいなかったのかも。
私の事を心配して、ずっとベッドの横に付き切りでいてくれたって事?


驚きと嬉しさの入り混じった気持ちのまま、キッチンを覗き込む。
ココはリビングと違い、散らかったままの状態だった。
昨日の食器が、そのままシンクに残されていたり、水差しや濡れたタオルなども乱雑に放り出されていた。


昨晩のシュラ様の行動が、目に見えるようだわ……。


私が寝ていたシュラ様の自室と、このキッチンとの間を何度も往復して。
水や飲み物、冷やした濡れタオルなどを運んできてくれたり。
食器を洗う暇も惜しんでシンクの中に投げ出したまま、私の傍へと戻ってきてくれたり……。


キッチンに残された昨夜の痕跡を見つめていると、キュンと甘い痛みが走り、思わずギュッと自分の胸を抱いた。
こんなにもシュラ様は私の事を心配してくれたのかと思うと、胸の奥にジワリジワリと熱い想いが広がっていく。
例え、彼が見つめているのが他の女性だと分かっていても、こうして心配して貰える存在でいれる事。
それが、とても嬉しい気がして。
私は自分の胸を抱いたまま、ジワジワと広がる喜びにキュッと目を閉じた。





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