星より瞬く闇色の



こっくりと深い闇色が空全体を覆い尽くした夜。
雲一つない夜空の真ん中に、どっしりと存在感を見せ付けて浮ぶ満月。
視界に広がる月明かりの帯を眺めながら、私はただボーッと上を見上げていた。


磨羯宮の側面に腰掛けて見上げる今夜は、七夕の空。
探さなくても直ぐに見つかる夏の大三角形。
琴座のベガと鷲座のアルタイル、織姫と彦星。
今日は無事に逢えて良かったねと、沢山の星が瞬く夜空を眺めて何となく思う。


ペタンと座った石造りの床が、ヒヤリと素足に気持ち良い。
背中を預けた、この磨羯宮の柱は、きっと何人もの背中をこうして受け止めて支えて。
何百年、もしかしたら、それよりももっと長い間、ココで星空を見つめてきたのかもしれない。
そう思うと、何だか感傷的な気分になって、私は夜空を見上げたまま、冷たい床を手で撫でた。


「何をしている、彩香。こんなところで?」
「シュラ……。」


夜空だけが広がっていた視界を、突然、現れた無愛想な顔が遮った。
今の私の目には、訝しげに私の事を覗き込むシュラの顔しか映っていない。


「今夜は七夕だからね。」
「そうか……。今日が『七夕』なのか。」
「知ってるの、七夕?」
「この前、老師が執務中にそんな話をしていた。織姫と彦星が何とやらと……。」


「ふうん。」と小さく頷くと、シュラは私の横に移動して、同じように柱にもたれて座った。
再び、視界いっぱいに広がる満天の星空。
聖域で見る星は、日本で見ていた星とは別物だ。
あんな小さく切り取られた狭い空に浮ぶ星とは、霞んで良く見えない星とは大違いだと思った。


「……で、どれとどれが織姫と彦星だって?」
「ん? 織姫があれ、琴座のベガ。で、彦星が――。」


夜空に向かって指を差す私の前に、再び無表情を貼り付けたシュラの顔。
折角、人が教えて上げているというのに、空を見ずに私の顔を覗き込むなんて、何のつもりだろう。


「ちょっと、シュラ。それじゃ、見えないよ、星。」
「星など見なくても良い。お前は俺だけ見ていれば……。」


刹那、痺れる程に強い力で引き寄せられ、痛い程に強く唇を押し付けられた。
髪に通した指と手で、頭をガッチリとホールドされて、離れようとしても離れられない
足掻いても無駄、唇も舌も磁石みたいに吸い付いて絡み合って。
ただ、シュラの激しさに飲まれるだけ。


シュラの事さえ見ていれば、それで。
他に何一つ必要なものなんてないと、貴方はそう言いたいの?
七夕の夜に願いを掛ける必要なんてない。
その漆黒の鋭い瞳に宿る光は、星よりも心惹き付ける輝きを見せてくれるから。


一年に一度の逢瀬、それはロマンティックな話かもしれないけれど。
でも、一年の内の、たった数時間。
そんな短い時間じゃ、シュラへの想いは昇華し切れない。
そんな短い時間じゃ、シュラからの愛を受け止めきれない。


伝え切れない想いが残り火となって、残酷なまでに心を焦がすばかりなら。
ロマンティックな演出なんていらないから、ひたすら私を愛してくれればそれで良いと思った。



劇的な愛はいらない、ただずっと傍にいて



たっぷりと時間を掛けて与えられた長過ぎる口付けに、唇が離れた後も余韻と名残に身体が震える。
いつの間にか、シュラの首にしっかりと回された腕。
まるで私から求めたみたいにも見える。


「続きは中で、だな。それとも……。」
「??」
「このまま星の下で……。なんてどうだ、彩香?」
「ば、バカッ! 誰か来たら……。」
「フッ、冗談だ。」


軽く笑って、軽いキス。
そして、これから向かう部屋の奥で、彼は深く濃い愛の形を教えてくれるのだろう。



‐end‐





『七夕なので、山羊さんとラブラブに。』をコンセプトに書いたのに、山羊さんの出番もセリフもあまりなかったとか言う……orz
しかも、ただの欲求不満な山羊さまっぽい気が(滝汗)
えっと、あの、そのですね、山羊さんはキスが濃厚で上手いって事で。
以上!

2009.07.07



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