贅沢過ぎるご褒美



「良し! これで全部終わりっと!」


綺麗に畳んだ洗濯物をクローゼットの中に片付けてしまえば、本日の仕事は全て完了だった。
今夜は夕食はいらないとシュラ様に言われていたし、自分一人ならば適当に有り合わせで間に合わせようと、冷蔵庫の中身を思い浮かべながら夕食の献立を考える。


本日はクリスマスだ。
昨夜は夜勤当番だったシュラ様も、今日はきっと誰か素敵な人との約束があるのだろう。
夕食がいらないという事は、そういう事よね?
それにしても、シュラ様と一緒にクリスマスを過ごせる『素敵な誰か』が、とてもとても羨ましい。
一介の宮付き女官でしかない私にとって、それは高望み過ぎるくらい遥か遠い願望だったから。


「仕事、終わったか? 彩香。」
「あ、シュラ様。はい、全部終わりましたが……。」


何か御用でも?
そう聞こうとして、でも、それは叶わなかった。
次の瞬間、どうしてそういう事になったのかまるで分からなかったが、私は何故かシュラ様の腕の中で横抱きに抱え上げられていたから。
そう、いわゆる『姫抱っこ』の状態で。


「え? あ、な、何ですかっ?!」
「しっかり掴まってろよ、彩香。」
「へ? あの……、って、ひゃあぁぁぁ!!」


考える余裕なんてどこにもなくて、私はただ必死に腕を伸ばして掴まっていた。
身体に掛かる、とてつもない重力と圧力、そして、強風・暴風・突風。
自分がどういう状態で、どうなっているのかなんて考える事すら出来ずに、ひたすら襲い掛かる諸々の力に抗っていた。


「……着いたぞ、彩香。」
「……はぁ。って、ええっ?!」


それから数秒後か数分後か、呆然とした私の耳にシュラ様の声が響く。
あらゆる事が理解不能になっていた頭が、視界に映る景色の意味するところを、ようやく理解出来た、その瞬間。
あまりにも予想外の事態に、私は周りの目も気にせずに大きな声を上げてしまった。


「な、し、シュラ様っ?! ココって、アテネ市街じゃないですか?!」
「あぁ、そうだが?」


そうだがって、何でそんな落ち着いた声で言ってのけてるんですか?!
いきなり何も言わずに、こんなところまで連れてきて。


「いつも俺のために頑張ってくれている彩香に、今日はお礼の食事でも、と思ってな。」


そう言って、シュラ様が指差した目の前のホテルは、確かグラード財団系列の超有名一流ホテル。
私のような者には、一生、ご縁がないと思っていた場所だ。


「でも、私、女官服のままなのですが……。」
「服くらい俺が買ってやる。来い。」


アタフタしている私を引き摺るようにして手近なお店へ入ると、シュラ様は適当に、だが、とてもシックで素敵なワンピースを選んで、言葉に違わず本当に買ってくれた。
あまりに速い展開に、ただただワタワタとしていた私も、試着室で着替えをする頃には、少しずつ冷静な心を取り戻してきて。
まるで映画のような展開に、胸が不規則にドキドキと高鳴ってくる。


その後、初めて入った高級ホテルのレストランでも、緊張のためか、それともシュラ様を目の前にしているためか。
折角のディナーも味がほとんど分からなかったし、何を食べたのかも思い出せないくらいだった。


「どうだ、彩香。たまにはこんなクリスマスも良いだろう?」
「え、あ、はい。とても美味しかったです。でも……。」
「でも?」
「凄く緊張して疲れました。」
「ははっ、そうか。」


自分の勤める宮の主であるシュラ様に食事を奢って貰うなど、何だか悪いように思えてしまう。
だが、断るのはもっと失礼だし、だいだいこんな高級なお店、自分で支払えるとは思えない。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、私はシュラ様のご好意に甘えた。


「さてと、帰るか。」
「はい、そうですね。」
「それとも、折角だし、ココに泊まっていくか?」
「え……、はぁ?!」


その言葉が何を意味するのか、分らない程、子供ではない。
そのとんでもない発言に一瞬、全身が固まる。
が、フッと悪戯な笑みを零すシュラ様の表情に気付き、それが冗談だったと分かった。



もう満足です。これ以上のドキドキは、いりませんから



「もうっ! 変な冗談は止めて下さい!」
「流石に、宮を空けっ放しという訳にはいかんしな。だが……。」


刹那、スッと真剣に変わった瞳。
深くて強くて、それでいて真っ直ぐで。
そして、息が止まる程の色気を多分に含んでいて。


「何なら、俺のベッドに来ても構わんぞ。」
「し、シュラ様っ!」


真っ赤になった私の頬をひと撫でして、「夜が明けるまでは寝ないで待っている。」と、嘘か本当か判別出来ない言葉を告げる、その声の色っぽさときたら。
あまりの刺激の強さに、私はその場で卒倒してしまいそうだった。



‐end‐





口説きフェロモン全開のセクシー山羊さん。
ヒロインの反応が面白くてからかっているだけなのか、それとも、本気なのか……。
この続きは、お好きに妄想して下さいませ(笑)

2008.12.25



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