満月の船ゆらゆら



黄色い月がプックリと膨れ上がって、真っ暗な地上を照らす満月の夜。
時間を掛けて陸み合ったベッドの上で、今は身体を寄せ合い穏やかに過ごしている。
頭を預けた彼の分厚い胸の奥からは、安定して揺るがぬ心音が響き、私は夢と現実の狭間で、ポツリポツリと呟いていた。


「…………だわ。」
「ん? 何だって、彩香?」
「どれ程シュラの事が好きなのかって、考えていたの。」


言葉はいらない。
見つめなくても良いの。
手を触れる事も、キスもしなくても良い。
ただその香りに、ひたすら酔っていたい。
例え五感が一つだけになっても、私は貴方を愛せるわ。


「フッ、ポエムか。」
「そう、ポエム。中々、良い出来でしょう?」
「なら、実践してみるか?」
「実践? ポエムの内容を? 一体、どうやって?」
「シャカに頼めば良い。」


アイツの技なら、感覚を一つずつ剥奪する事が出来る。
そう言って、シュラは口の端から細くて苦い笑みを漏らした。
それから、私の顔へと、その長い指を伸ばし、触れるか触れないかの微妙な加減で指を動かしていく。


「まずは視覚。それから聴覚。」
「あっ……。」


指先が微かに瞼を掠めた後、次いでジットリと押し付ける唇の感覚。
それは直ぐに除けられて、今度は耳の縁をなぞる指先。
だけど、それも直ぐに離れ、濡れた舌先が耳を辿り、そして、少し強めに耳たぶを食まれる。


「その次に触覚、最後が味覚だ。」
「あっ……、んっ……。」


耳を噛んだ歯と、悪戯な唇は、そのまま下へと、甘い痺れを与えながら首筋を下がっていく。
それは反らした喉の一番高いところへ吸い付くと、今度は敏感な箇所を掠めながら上へ進み、最後は、それまでの絶妙な加減を金繰り捨てて、熱烈な口付けで、私の唇を塞いだ。


「ふっ……、ん……、あ、シュラ……。」
「お前は、何処を食べても美味いな、彩香。」
「味覚を失ったら、味わう事も出来なくなるけど。」
「それは……、困るな。」


ククッと自虐的な笑みを漏らし、シュラが私の前髪を掻き上げる。
その際に、額を掠めた彼の指先が妙に擽ったく感じて、私は身を捩って身体を横に向けた。


「まぁ、シャカに頼んだとしても、戦闘以外での感覚の剥奪など、絶対に引き受けてはくれぬだろうがな。」
「そうね、無理な話ね。」
「ならば、持っているもの全てで愛し合い、身体に刻み付けておかなければ。彩香が俺の全てを思い出せるように。俺がお前の全てを思い出せるように、な。」


いつ何を失っても、記憶の奥で蘇らせる事が出来るなら、その時が来るのを恐れる必要はない。
細胞の一つ一つまで、全てが貴方を覚えているから。


「視覚を失えば、彩香の艶めかしい姿態を見られなくなる。聴覚を失えば、この愛らしい喘ぎを聞けなくなる。嗅覚を失えば、芳しい汗の匂いも嗅ぐ事が出来なくなる。」
「触覚を失えば、触れる肌の感触も分からなくなるわ。」
「抱き合う時の、あの最高の感覚も無くなる訳か……。それは嫌だな。」


背を向けていた私を後ろからギュッと抱き締め、シュラは耳元に小さく苦笑いを零す。
顔だけ振り返った私の唇に小さくキスを落とし、そこから流れるように身体をズラして私を組み敷いた。


「ああ……、あ、あっ……。」
「くっ、彩香……。」


そこから始まる濃厚な愛撫は、まるで何かを失った時に備えて、何もかもを刻んでおきたいと思える程に強く、深く。
私は激しい歓喜の波に飲まれ、目眩の渦に沈み込む。
その動きの全てを、身体の奥に刻んで忘れないように、必死でシュラを受け入れた。


彼が聖闘士である事を思えば、何かを失う事は、決してお伽話ではない。
あの満月が欠けていくように、例え身体の一部が欠けてしまったとしても、この想いは決して欠けはしないのだ。
そう触れ合う唇と交わす口付けで、私達は互いに誓い合っていた。



月の船で漂う、情熱の海を



‐end‐





山羊不足を補うために、急ごしらえで微ERO山羊さまを書き上げました(苦笑)
ピロートークからの二回戦は、山羊さまとの夜では避けられない行為ですw

2016.10.16



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -