乞い願うもの



夕陽のオレンジ色が空に散る無数の雲を斑模様に染めている。
それは切ない程に胸を締め付け、喉の奥から無意識に深い溜息を吐き出させた。
だが、東の空から迫り来る闇が、その痛いまでの夕陽の色を、徐々に徐々に壊していく。
その光景に安堵する自分は不安定なのか、それとも、それが当然の反応であり安定しているのか。
そんな事も分からずモヤモヤとする心を嘲笑うかの如く、あっと言う間に空は暗く翳っていく
そう、直ぐに夜が世界を覆うのだ。


「……シュラ?」
「ん? あぁ、すまん。」
「珍しいのね、ぼんやりして。」
「そうか?」


怪訝そうな表情で俺の顔を覗き込む彩香の手から受け取ったマグカップには、淡い色に渦を巻くミルクティーが注がれていた。
手から伝わるカップの温もり。
それがジワジワと身体の中に浸透して、ささくれ立った心までも穏やかに落ち着かせてくれるようだった。


「俺の事を、何を考えているか分からぬ男だと思っているのだろうな。」
「そうね。シュラは言葉数も少ないし、表情にも出さないし、気持ちを読み取り難いかな。」
「知りたいと思うか?」
「貴方に教えてくれる気があるのなら。」


窓辺から離れ、彩香の隣に座る。
彼女はクスクスと笑っていた。
冗談と受け取ったのか。
それとも、俺が本当に心の内を教えるとは思ってもいないのだろうか。
ポンと小さな頭に手を乗せると、キョトンと目を丸めた彩香の反応が、まさにそれを物語っていた。
ゴトリ、カップをテーブルに置いた音が、ヤケに大きく部屋に反響する。


「飢えているのだ。いや……、飢えているというより、枯渇しているというのが正しいか。」
「枯渇? シュラが?」
「おかしいか?」
「ちょっと……、驚いたかな。」


この会話自体が、彼女にとっては思い掛けないものだったに違いない。
浮かべる笑みに、ホンの少しだけ苦みを含ませて、俺に頷いてみせる。


「で、何に枯渇しているの、シュラは?」
「……愛だ。」
「愛?」


苦い笑みを引っ込めて、今度は眉をグッと寄せる彩香。
深く皺の寄った眉間は、男の俺ならば険しいだけだが、それが彼女ならば不思議と愛らしい。
その眉間に指を軽く押し付けて、今度は俺が笑みを浮かべた。


「似合わぬ事を言っていると思っているのだろうな。だが、こうして新たな命を得て生き返った今、以前は然程でもなかった気持ちが、次第に大きくなっている。燃えるような闘志を持って闘っていた時と同じく、燃えるように強く誰かを愛したいと。」
「随分とクサい台詞ね。」
「俺もそう思う。だが、彩香は知りたいと思ったのだろう? これが、お前が知りたがった俺の本心だからな、仕方ない。」


クサいなどと揶揄しておきながら、俺が肩に手を回せば、自然と頭を預けてくる。
これから俺は、自分が望むように強く彩香を愛せるのだろうか。
彼女と深く愛し合えるのだろうか。
それはまだ分からない。
分からないが、きっと彩香が俺の生涯の相手だと、そう信じてたい気持ちが湧き上がってくる。


肩を抱いていた手で、滑らかな髪を撫でた。
そっと頭を上げ、ジッと俺を見上げる彩香。
何も言わずとも熱く訴えてくる瞳と視線が重なる。
その視線に心の奥がザワザワと騒ぎ、俺は華奢でいて柔らかなその身体を、ゆっくりとソファーに押し倒した。



世界が闇に飲まれる頃、俺の全ても飲み込まれるのだ



‐end‐





ちょっと大人っぽく、ちょっとEROセクシーな山羊さまを目標に書きました。
が、撃沈(苦笑)

2016.01.24



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