好き、嫌い、好き



「シュラ様は、私の事がお嫌いですか?」


思わず聞いてしまった一言に、彼は驚いた様子で目を見開いた。
普段、何事にも動じず、良く言えば涼しげな表情、悪く言えば仏頂面で強面なシュラ様だから、そんな予想だにしなかった反応をされて、私の方が返って面食らったくらいだ。
ついポカンと、その顔を眺めていたら、目を見開いたままで彼が問う。


「何故、そう思う?」
「え、それは……。」


私が何をしても無反応だから。
話し掛けても、「あぁ。」とか「そうか。」とか、関心なさ気にお座なりな返事しか返してくれない。
彼のためにと頑張って作ったお菓子を渡しても、無言でムシャムシャ食べるだけで、感想を告げられる事もない。
そもそも、私の目を見て話をしてくれないのだ、この人は。
そういう事が積み重なって、最終的に出た結論が、『シュラ様は私が嫌い』というものだった。


「彩香……。」


私の名前を呼んだ後、シュラ様はハァと一つ、大きな溜息を吐いたかと思うと、そのまま眉間を押さえて顔を背ける。
まるで私が何も分かっていないと言いたげな仕草。
そんな彼の様子に、あぁ、やっぱり嫌われているんだなと確信する私。


「そこから何がどうなって、そういう結論に達したのかは分からんが……。」


そう言い放つシュラ様は、相変わらずコチラに目を向けてくれない。
ほら、そういう態度が嫌っていると思われる要因ですと、思わず口を挟みたくもなる。
だが、私はグッと声を飲み込んで、後に続くだろう彼の言葉を待った。


「俺は元より無口なんでな。『あぁ。』としか返さなかったのは、女に対してどういう返事をすべきなのか、イマイチ良く分からなかったからだ。嫌いであれば、そもそも無視している。」
「は、はぁ……。」
「菓子にしてもそうだ。上手い表現や感想の言葉が浮かばなかった。だから、黙々と食う事で、美味いと思っているとアピールしていたつもりだった。もし、それが嫌いな相手から貰った物なら、それを食いもしないだろう。」


それはつまり、何が言いたいの?
彼の言いたい事が良く分からず、頭の上に疑問符を浮かべて見つめる。
するとスッと身を屈めたシュラ様の手が、頬に触れたと思った刹那――。


唇に温かで柔らかな感触。
キス……、されていた。


唇の表面が触れるだけの、極々軽いキスだったけれども、キスはキスで変わりない訳で。
私は先程よりも、もっと目を見開き、更に口までポカンと開けて、目の前にあるシュラ様の端正な顔を眺めるしか出来なかった。
何が起こったのか、頭が混乱して訳が分からなくなってしまったのだ。


「あ、あの……。」
「彩香。お前は俺が嫌いな相手にキスをすると思うか?」
「い、いえ……。」
「ならば、これがどういう意味か、分かるな?」


そんな風に念押しされてしまっては、コクンと頷くしかない。
私の頭が上下したのを見届けた彼が、滅多に笑わないその口元に、フッと軽い笑みを浮かべる。
その笑みにドキドキとする間もなく、次の瞬間には、シュラ様の仕掛ける深い口付けに囚われていた。



好きだけで埋め尽くして



不器用な人なのだ。
自分の想いや気持ちを、言葉や態度に出来ないだけ。
そして、表情にも出さないのだから、いつも誤解されてしまう。
私が、そうであったように。


「……彩香。」
「は、はい?」
「お前を抱きたい。抱いても良いか?」
「っ?!」


い、いきなりそうきますか?!
不器用が極まると、こうも極端になるなんて。
シュラ様、反則も良いところです。



‐end‐





不器用過ぎて相手の女の子にはイマイチ伝わらない山羊さまだけど、妄想内では色々と暴走してますよ的なドリ夢、に仕上げたつもり(苦笑)
彼は彼なりにアピールしてたんです、少々分かり辛いアピールですけどw
そして、想いが伝わったとなれば、後は恐ろしいくらいに手が早いと良いよなんて思ったり何だりした訳です。
見せ掛け硬派のラティーノですから、手が早いくらいが丁度良い^v^

2013.03.03



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