指先から広がる



カランと、氷の揺れる音が響き、ハッとして目を覚ました。
いつの間に寝てしまったのだろう?
それすらも分からない程、ゆっくりゆったりと眠りに引き込まれていた。


「目が覚めたか、彩香?」


至近距離から聞こえたのは、私が頭を預けていた相手の声。
睡魔に誘われるままに全体重を預けていたのにも係わらず、彼の広く逞しい肩は、まるで重さというものを感じていないかのように揺らぐ事なく、そこに存在していた。


「……私、いつの間に?」
「さぁな、いつの間にか、だ。」


私が眠ってしまった後も、シュラは一人、淡々と飲み続けていたのだろう。
未だ肩に凭れ掛かったままの私をチラと一瞥し、またグラスをゆっくりと口に運ぶ。
ゴクリ。
一口、口に含んで、そして、飲み込む、その一連の動作。
ただそれだけの事なのに、この人だと、どうしてか、こんなにも色っぽく見えてしまう不思議。


いや、見えてしまうのではない。
実際に色っぽいのだ。
ゆっくりとグラスを口元に運ぶ仕草とか。
心なしか嬉しそうにアルコールを口に含む時の、その濡れた唇とか。
それを飲み干す際の、男らしい喉の隆起とか。
シュラがお酒を嗜む時の全ての動作が、思わず見惚れてしまうくらいの色気を醸し出している。


「何をそんなに見ている?」
「ん? シュラって、とってもセクシーだなぁと思って。」


そう言うと、彼は私の頭を乗せたまま、小さく肩を竦めた。
カサリと耳の下で揺れたシュラの身体。
そして、カラリと再び氷が鳴った。
溶け出した氷が、グラスの中の琥珀色を薄めて、彼の白いズボンに淡い色の影を作る。


「女の子、落とし放題だったでしょ? そんなにセクシーなら、何もしなくても向こうから寄って来ただろうし。」


まるで光に群がる蛾のように、綺麗な女性が引っ切り無しだったに違いない。
お好みの相手を、好きなだけ味わえる。
シュラの色気のレベルならば、それこそ選びたい放題だ。


「何だか……、凄く嫌だわ。ムカムカしてきちゃった。」
「俺に八つ当たりか? 自分で勝手に想像して、自分で勝手に言ってるだけだろ。」
「そうだけど……。」


見も知らない昔のシュラの恋人、戯れに一晩過ごしただけの女性。
その全ての相手に、突然、沸き起こった嫉妬心。
あぁ、こんなにも素敵な人を、こんなにも艶めかしい男性を、僅かな時間だけでも独占した全ての人が憎らしくもあり、羨ましくもある。
一体、どれだけの数の女性が、シュラの身体に酔いしれ、シュラの言葉に涙したのだろうか。





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