と一緒



季節外れのインフルエンザなんて、一体、何処から貰って来たのか。
ウイルスも恐れをなして逃げ出しそうな、あのラダマンティス様が、まさかのまさかで罹患してしまい、かなりの高熱と激しい嘔吐に見舞われているという。
蔓延を阻止するためにジュデッカの執務室は閉鎖、暫くの間、それぞれの館で事務仕事を片付ける事になったのだが……。


「ミ〜。」
「はぁ……。」


このトロメア内のミーノス様の自室では、猫ちゃんのノンビリした鳴き声と、彼の溜息が見事なハーモニーを奏でていた。
キッチンから様子見と思って顔を出した私が見たのは、デスクの前で項垂れるミーノス様の姿。
彼が、そんな力ない姿を見せるのは珍しい。
何事が起ったのかと近寄ってみれば、直ぐに、その原因が視界の中に映った。


「この子ったら、何でまたこんなところに……。」
「本当です。本当に困ったものです、全く……。」


酷く脱力したミーノス様の声。
彼の目の前には、デスクの上に居座る猫ちゃんの姿が。
そう、デスクの上に広げられている書類も全て、猫ちゃんの下敷きになっている。


「無理矢理にでも除ければ良いのではないのですか?」
「貴女も、そう思うでしょう? でも、そう一筋縄ではいかないのですよ。」


言いながら彼は、どっしりと横たわった猫ちゃんをデスクから引き摺り下ろし、ふかふかの猫用ベッドの上に下ろした。
いつもならば、そこが一番居心地良い寝場所の筈なのだ。
が、猫ちゃんは、今日はココではないとでも言いたげに、直ぐにベッドから飛び出して、ミーノス様が仕事をするデスクへと駆け寄ってくる。


「で、こうなって……。」
「ミ〜。」


ミーノス様の足元をウロウロと周り、そして、足首に顔を擦り付ける猫ちゃん。
と思えば、ヒョイと身軽に飛び上がり、目にも留まらぬ速さで膝の上に飛び乗ってきた。


「そして、こうなる、と。」
「ミ〜。」
「成る程、この繰り返しだったのですか。それで、あの溜息……。」
「えぇ、その通りです。」


ミーノス様の膝の上に乗った猫ちゃんは、今度は彼の厚い胸板に顔を擦り付け、心地良さげに目を細める。
それで満足なのかと思いきや、またも目にも留まらぬ速さで、膝の上からデスクの上へとジャンプ。
そして、最初の光景に戻ったのであった。
この子ったら、どれだけデスクの上が好きなのか、書類を下敷きに寛ぐのが好きなのか。


「私の執務の邪魔をするのが、お昼寝よりも楽しいのでしょうかね。」
「飼い主に似たのではありませんか?」
「どういう意味ですか、それは?」


言わなくても分かるでしょう。
この子、ミーノス様に似てSなんですよ、きっと!
邪魔するのが快感、自分に一番に気が向いてないと許せない。
そう思っているのではないですか、ミーノス様と同じで。


「邪魔をするのが快感だなんて、思った事もありませんよ。って、何ですか、その目は?」
「疑いの眼差しです。」
「誤解も良いところです。私はSではありませんし、人を困らせて楽しむ趣向は持っていません。ただ、貴女の気持ちが一番に私に向いていないと、苛立つ事は多々ありますがね。」


そう言ってから大きな溜息を吐くと、彼は書類の上に鎮座する猫ちゃんの頭をゆっくりと撫で始めた。
どうやら、暫く執務は出来ないと諦めたらしい。
私の方へと振り返ったミーノス様は、彼には珍しい仕草で大きく肩を竦めたのだった。



→次項に続く


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