男は、まっすぐ前を見ていた。
「………お前か」
疑問と、諦めに近い声。
「だ、誰――――」
振り向いた父親に男は近づく。
そしてポケットに入れていた刃物を、男は父親の背中に振り下ろした。
「きっ――――」
燐は慌てて丹那の目をふさぐ。
何度も、何度も。
男は背中に刃物を突き立てた。
「きゃああああああああああああああああ」
抵抗しなくなった父親を蹴飛ばし、男は母親へと近づく。
「いやああああ来ないで!!!!丹那!!!!!」
青白い顔で母親は、持っていた包丁を男に向けた。
「お前か」
包丁を恐る様子も見せずに、男は母親に近づく。
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