揺さぶるように、燐の名前を呼ぶ。
ゆっくりと顔をあげる。
「茉樹………」
その瞳には、涙が滲んでいた。
「俺………思い出したんだ」
「思い、出すって………」
「最初は分からなかったんだけどさ、うろ覚えで。でも、ハッキリと分かった」
ボソボソと、語り始める。
「待って。今は、違う………」
そんなにいくつも、持ってこないでほしい。
1つ1つ、向き合っていきたい。
茉樹は斗織の方を見る。
斗織は壁に背を預け、どこか遠くを見ていた。
(待って………)
壁。
それは、家の垣根だった。
青山家の。
大きく、そこにある家。
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