「………丹那。入れる?」



自分は、入りたい。



少しでも手がかりがつかめるのなら、入りたい。



茉樹は強くそう思った。



この世界も悪くないかもしれない。何も知らないのも、案外いいかもしれない。



知らなくていいんだ。



それは茉樹にとって、とても楽だった。



記憶は、楽しいものばかりではないから。辛いこともあるから。



楽しいことだけ、なんて虫のよすぎることはない。



辛いこともあるんだったら、いっそのこと何もなくていい。



前にどこかで、そう思ったことがある気がする。



「………入る」



「丹那。無理しなくていいんだ」



燐が止めるかのように言った。




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