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うみのかみさま



 そのポケモンは、荒れ狂う海を鎮めると云われる。羽ばたくと40日嵐が続き、海の底に眠る。体は美しい銀色の羽を持ち、謳うように鳴くと云う。

 そう静かに告げたマサムネに、マゴイチは目を見開いた。

「おいおい、それってまさか」
「そのまさか、よ、マゴイチ。ワシもそのポケモンを見たことがない。ただ、書に綴られた技術のみ。恐らくはイズミのくにの方が何か知っている者は多い」
「そういう話じゃない、マサムネ」
「わかっている。会おうとするならば、途方ない労力がいる」

 ポンポンと進む会話に、ナマエは首を傾げた。マサムネとマゴイチはナマエを見る。

「ナマエ、恐らくお前を助けたのは『ルギア』と云う幻のポケモンよ」

 マサムネの言葉に、ナマエは小さく「ルギア」と言葉を繰り返す。ナマエはそのポケモンを知っている。と、言うのは母親から昔聞いた話の中でそのポケモンが現れるのだ。

「うみの、かみさま?」

 そう尋ねたナマエに、マサムネは「知ってるのか?」と目を瞬かせた。

「ひのかみ、かみなりのかみ、こおりのかみにふれるべからず。さらば、てんちいかり、せかいははめつへむかう。うむのかみ、はめつをすくわんとあらわれん。おかあさんのむかし話」
「海の外の言い伝えか、面白い」

 そう告げたマサムネに、マゴイチは何かいいかけて、マサムネに制された。

「だが、ナマエの言葉通りにルギアを呼ぶのなら神を怒らせればならない。が、この地方の言い伝えではない限り、同じ方法をとったとしても現れるとは限らない……この地方もかのような幻を呼ぶ方法はあるが、恐らくは他の方法を探った方が早いのが現実よ」

 マサムネはそう言ってナマエを見た。ナマエは首をかしげる。

「ほかの?」
「空を飛んで帰るなり、海を渡るなり、よ」

 マサムネの言葉に、ナマエの代わりにマゴイチが首を振る。

「無理だ。どこの方角から来たのかも、潮の向きも、距離も何もわかってないんだ。それにたどり着いたとして、ナマエの地方かどうかといえば否だ」
「ならば、酷だが、諦めてこの地方で生きたほうが楽じゃ」

 マサムネの言葉に、ナマエがピタリと動きを止めた。ナックラーがナマエを心配そうに見上げる。ピカチュウが首をかしげる。マサムネの言葉がぐるぐるとナマエの頭の中を巡り――ナマエが理解する頃には、ポロリとナマエの目から涙がこぼれた。


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