おもいにふける
シンゲンとマゴイチ、ケンシンが難しい話をし始めた為、ナマエはまわりを見渡す。ユキムラとカネツグ、アヤゴゼンとクノイチは何か話をしているし、エルレイドやクマシュン、ユンゲラーの戦意はなくなったらしい。息をついていたエルレイドもナマエの視線に気づいたらしい。近づいてきたエルレイドはナマエよりも背が高く、見上げる形になった。ぽん、と頭の上に置かれた手はどこか優しい。
「らてぃににてる」
そう小さくつぶやいたナマエは、少しぐにゃりと顔を泣きそうに歪めた。驚いたエルレイドに、近くにいたクマシュンとピカチュウがよってくる。困ったように、悲しそうに見上げたナックラーに、ナマエはぐしぐしと顔を着物の袖で拭った。
「ぱぱとまま、げんきかな」
そのままナマエは視線を空に向けた。そばに常に人はいるが、ずっと会えなくて、さみしくないわけではない。その小さなつぶやきを拾ったのか、近くにいたカネツグとユキムラがナマエに声をかける。「ぱぱ?」と不思議そうに首をかしげたユキムラに、ナマエは口を開く。
「おとうさんとおかあさん」
「父と母のことか」
「ナマエ殿の父上と母上はどのような方なのです?」
「おとうさんは、モトナリさんみたい。むかしばなしをけんきゅうしてます」
「それは立派な方ですね」
「おかあさんは、かくとうぎがすきで、よくかくとうぎをみにいってるよ」
「ははは、強い母上だな。手強そうだ」
「・・・・・・ふたりとも、わたしをわすれちゃってたらどうしよう」
そうぽつりと告げたナマエは足下に目線を移す。悲しそうにするナックラーが首を振った。そんなわけない、と否定するように。ユキムラとカネツグは目を合わせた。
――そう、この子供は海の外から来たのだ。家に帰れば、アオバの国に帰れば会えるわけではない。
ユキムラはそっとナマエの頭を撫でる。
「――きっと、お二人も必死でナマエ殿を探してらっしゃいますよ」
「ああ、子供を探さない親など、子供を忘れる親など義に反するからな」
カネツグの言葉に、ナマエは顔を上げて首をかしげた。
「ぎ?」
「おお! ナマエも義に興味を持ったか!」
カネツグが嬉しそうに目を輝かす。ユキムラは苦笑いした。そこから始まったカネツグによる『義』の講習会は、数十分後に見かねたエルレイドによって止まるのだけど。
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