とっしん ▽
「ムネシゲ、こんな所で何を――おい、何故、マゴイチがいる」
「そんな怖い顔をするなよ、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
「なっ! そんなに電気ショックを喰らいたいか」
ムネシゲに連れられてやってきた、シデンの国の城。あれよあれよと部屋に通され、一人の女性と面会した。気の強そうな女性である。ムネシゲの連れているポケモンも――もっと言ってしまえば、マゴイチやモトナリが連れているポケモンも、だが――アルトマーレではみたことはなかったが、女性の連れているポケモンもみたことがない。マゴイチが女性と会話する間、ナマエはナックラーと首を傾げてそのポケモンを見ていた。
「だいたい、なんの……」
ぱちり。
音にすればそうだろう。ナマエと女性の目があい、女性は瞬きした。そして、口をぱくぱくと動かす。
「なっ、」
ナマエは訳がわからず、とりあえずマゴイチを見上げた。ナックラーも同じくそうする。ムネシゲはそれをみて満足そうに笑う。
「やはり、いいブショーになりそうだ」
「ムネシゲ!これはどういうことだ!」
女性の怒りの矛先はどうやら、ムネシゲに向いたらしい。マゴイチはふっと息を吐くと、ナマエを見た。
「ナマエ、紹介してなかったな。男の方がムネシゲ、女性の方がギンチヨだ。ムネシゲがシデンのブショーで、ギンチヨがブショーリーダー」
「ムネシゲさんと、ギンチヨさん?」
ナマエの言葉に口論をしていた二人が振り向く。ムネシゲは笑みを浮かべて口を開いた。
「そういえば、君の名を聞いていなかった」
「ナマエ、です。アルトマーレからきました」
「あると……?」
「ギンチヨ、ナマエは別の地方からきたらしいぞ」
「なに?」
ギンチヨはまたナマエを見る。マゴイチはため息をついて、畳に座った。ナマエもマゴイチを見てから畳に座る。膝の上にはナックラーだ。子供にはナックラーは少し重いのだが、ナマエは慣れっこらしい。
「モトナリ公が浜辺に打ち上げられているのを見つけて保護したらしい」
「モトナリが? ならなぜマゴイチが共にいる?」
「俺はナマエをツバサの国へ連れて行って、アオバに連れ帰るように頼まれただけだ」
ポンポンと自分をおいて進む会話。ナマエはじっとギンチヨとムネシゲのポケモンを見つめる。それに気がついたのか、二匹がナマエの元へやってきた。ナックラーはのそのそとナマエの膝から降りると、二匹のポケモンの前に立った。二匹のうちのどちらかが鳴くと、ナックラーも鳴く。それはまるで会話をしているようだ。
「おはなし、してるの?」
ナマエがそう問いかければ、ナックラーは鳴く。パタパタと自分のそばに飛んできたムネシゲのポケモンにナマエは恐る恐る手を伸ばした。
「かわいい」
大人しく撫でられているムネシゲのポケモン。ギンチヨのポケモンはこっちを向いて、勢いよく駆け出した。
「わっ!」
勢いよくやってきたギンチヨのポケモンにナマエが受け止められずひっくり返る。
「こら、コリンク!」
「ははは、ナマエ、大丈夫か?」
マゴイチの問いかけにナマエはとりあえず頷いた。ギンチヨのポケモン――コリンクが離れると、ナマエはゆっくりと起き上がる。
「ナマエ、今日はここに泊めさせてもらうぞ」
どうやら大人達はいつの間にか話がついていたらしい。ナマエはもう一度頷いた。
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