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「ツェッド、俺は見たぞ」
「何をですか。言葉が足りませんね。意味がわかりません」
「昨日、一緒にいたあの子は誰だ?」
「ああ……紹介しませんよ」

 ツェッドがそうザップに言い放てば、一瞬肩を落とすが、ニヤニヤとした顔でツェッドを見た。

「へぇ、ほーう、へぇ。なるほどなぁ。魚にも春が来たか」

 ニヤニヤとした顔で告げるザップにツェッドは顔をしかめた。もちろん、リアとはそういう関係ではない。というか、自分が紹介しないからといってすぐそういう考えに至るのは短絡的だ。まぁ、この兄弟子は馬鹿だから仕方がないか。
 ツェッドはそう心の中で罵って、レオナルドを見る。

「レオナルドくん、いいケーキの店を知りませんか?」
「ケーキ?」
「ええ、友人の家に行くんですが、何もなければ流石にちょっと」
「へぇ、ほぅ、ナニするのかなぁ?」
「貴方と一緒にしないでください。家に行くからといって、そういうことをするはずがないでしょう。だから貴方は馬鹿なんだ」
「なにぃ!?」
「ケーキなら、アソコのケーキがイイっすよ。穴場なんですが――」





「ああ、別にそんなに気を使わなくて良かったのに」

  集合場所にケーキを持ったツェッドが現れるとリアはそう告げる。さて、行こうか、とリアは足を踏み出す。

「私の家はちょっと複雑な場所にあってね」

 そう肩を竦めたリアに、ツェッドは首を傾げる。

「複雑な場所?」
「路地裏の奥なんだ」
「危なくないんですか?」
「逆だよ、危険を避けてる」

 リアはそう言って路地裏にはいる。ここから先は迷いやすいから、とリアはツェッドの手を引いた。
 複雑に入り組んだ路地裏を右に、左にと曲がっていく。複雑過ぎてツェッドの頭はついていかない。まるで迷路のようだな、と思う。これでもしリアが自身の命を狙う人間なら、不意に浮かんだ考え。それと同時にリアが立ち止まった。

「ついた」

 リアの言葉に前を向けば、確かに路地裏は途切れて小綺麗な家の庭先に出た。イングリッシュガーデンというんだろうか。庭には花が美しく咲いているし、家もこじんまりと古いそれではあるが趣がある。すごい、と言葉を漏らしたツェッドにリアは笑った。

「まぁ、空はビルに囲まれているからイイものではないが」

 そう見上げたリアにつられツェッドは空を見上げる。確かに高いビルが辺りを囲んでいた。

「さぁ、家の中に」

 そう言ってリアは綺麗な庭に足を踏み出す。それをツェッドは見送った。すると、リアは振り返る。その一瞬はまるで絵画のようだった。いや、古い映画のワンシーンとも言える。

「――どうしたんだ?ツェッド」

 そう自分の名を呼ぶ姿さえも。



クラーレットの景色


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