「いい紅茶が手に入ったからきみと飲もうと思って」
そうプロスチェアーを眺めながら口を開いた女性――リアに、フルグルシュは彼女を見た。
生死をかけるゲームではなく、彼女はただ友人の家に遊びに来るようにこの場に訪れる。やれ新しい紅茶が手に入っただの、やれ綺麗な花を見つけただの、周りに比べては比較的いや、比較しなくても穏やかな理由だ。
フルグルシュ自体も彼女を友人と認めているため、そんな穏やかな理由も命をかけないプロスチェアーも拒みはしない。彼女自身が異人なのか人間なのかわからない存在だから、というのもあるだろう。
「新しい友人が出来た」
「珍しいな」
「風を操れるそうだ。公園で大道芸をしてる。彼にいい店を教えてもらってな」
そう上品な仕草でティーカップに紅茶を注いだリアをフルグルシュは見る。それはライブラという組織の人間なのだから関わらない方がいい、と釘を打ったとしても彼女は悠々とこう返すだろう。それがどうした?と。自身が同じ体験をしただけある。フルグルシュは話題を変えた。
「きみを探す人が増えた」
「で、君に餌食になるのか」
ついっと不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、リアはため息を吐いた。
「有名になりすぎたな、ゴースト」
「しばらくは警戒しよう。お遊びだったんだが」
「未来予知云々と聞いたが」
「未来予知? 晩御飯やら明日のテストやらちょっと教えただけなんだが」
「一応予知ではあるが、壮大な脚色がついたものだな」
そう愉快そうに笑ったフルグルシュに、こちらは迷惑なんだがな、とリアはなんとも言えない顔をした。
「だが、気をつけたほうがいい。友人が居なくなれば暇なのでな」
「よく言うよ、引っ切り無しに挑戦者が来てるくせに」
リアがフルグルシュに別れを告げてそこから離れると、大きな赤毛の男性と金髪の女性と目があった。慌てたようにドシドシとやってきた男性にリアはどうしたかと首をかしげる。
「ミス、この先に行ったのですか?」
「ええ、まぁ、でも、知人に紅茶を届けただけなので」
そういえば明らさまに安心したような男性にリアは首を傾げ、そして、頭の中で思い出す。たしか、フルグルシュに何度も引き分けてる男がいるだのなんだのと聞いた気がする。きっと彼なのだろう。
「貴方はよくこの先に?」
「紅茶や花を届けに。殺風景でしょう」
苦笑いをしたリアに男性も女性も目を瞬く。リアは時計を見て、そろそろ約束の時間だ、と二人を見た。
「すいません、予定があるので」
「ああ、すまない」
そう言ってリアは足を進める。二人の視線はしばらくすればそれた。
マリーゴールドイエロー
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