――あの人が、いなくなった。
残されたのは、あの人の使っていたと思われる武器と、あの人が羽織るように来ていたローブだけ。まるで同じ場所にあった機体がばらばらなのに、あの人の残したそれは綺麗な状態で発見された。まるで瞬時に消えたように。まるで元からいなかったように。
あの時、あの場所を攻める時、あの人が近くにいたような気がした。それはシモンだって同じだったらしい。それに、あの人の声もはっきりと聞こえたのだ。
何処かから現れそうだけどね、リアは。
そう告げたリーロンに、あの人のローブを手に取る。それを羽織れば、彼女の匂いがした。
前進せよ 目の前にいるロシウの頭を撫でる。触れられないそれでは意味がないだろう。それに彼はこの状態の私と接触する方法を知らない。ぽとり、と涙を落とした彼を見つめる。
「おまえ、アホだろ」
後ろからやってきたカミナは同じような存在である。だから、今度はこちらを触れるわけで。肩に肘を置いてきた彼に、ただ、そうだな、とだけつげた。
「でも、ロシウは強いから。前を向くさ」
「あぁん?」
「これから彼等は大変だろうから、私は此処を去るよ」
「何処に行くんだ?」
「ロシウの故郷に行って、消えるだけだろうな」
そう体を見る。服の端が砂のようにサラサラと落ちた。君はシモンかヨーコを見守るのか?と尋ねれば、彼は肩を竦める。
「彼奴らも前を向くだろ。俺もずっと此処にいるわけには行かねーよ。成仏するまでの暇つぶしだ。お前について行ってやる」
「お別れはいいのか?」
「とっくに済ませたさ」
そうニヒルに笑った彼は私を見る。
「お前こそ、お別れはいいのか?」
「……そうだな」
ロシウの頭を撫でて、耳元に口を寄せる。
「前に進み続けなさい。歩みを止めなければ、また会えるから」
それだけ告げて、顔を離せばロシウが振り返って目を見開いた。
「元気にね、ロシウ」
「リアさ――」
反応した彼の視界から姿を消す。シモンの声にロシウは前を向いた。
少年よ、前進せよ
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