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 動き辛い。
 そうため息をついてリアは自分の服を見た。シンプルで上品なワンピースに、カーディガン、靴も皮で出来た上等なものだ。斜めがけの鞄も上品なもので、収納はあまりよろしくない。今日も今日とてリアは周りの生徒の視線があまり好きではない為に、隠れるように木の上にいる。ワンピースで登るのは中々無理があったが、誰もいないが為にスルスルと登って見せた。
 リア=ステイシーという周りが持つ人物像は出来すぎている。リア自身、自分はそんな完璧な人間ではないし、憧れで見られるのも違うと思っている。誰とどう喋っても構わないだろうに、周りは一々口出しをし酷い時には近づくなとさえ勝手に警告するのだ。だから、リアの交友関係はとてもせまい。家族と幼なじみであるMJとピーター、そして周りを無視してやって来たサムしかいない。

「これはティーンとしてダメだろう」

 そんなことをリアが呟けば、下から「誰かいるのか?」と声が聞こえた。下に誰かいたらしい。 リアが下に目線を落とせば、下から見上げてくる視線とかち合う。確か、ピーターの新しい友達だ。名前は確か――ダニエル・ランドである。彼は驚いたように目を瞬いて小さく口を動かしたが、それがリアに届くことはない。リアは彼に手を上げた。

「やあ」
「……どうして君みたいな人が木の上に?まさか、降りられない?」

 彼の言葉にリアは苦笑いをする。勘違いされているらしい。まぁ、噂が噂だからな、と思いながらリアは首を振った。

「いいや、楽々降りれるさ。ただ、なんと言うか、ここは逃避場所なんだよ」
「逃避?」

 首を傾げた彼に、まぁ登っておいでよ、と告げてみる。ヒョイっと軽々登ってきた彼は恐らくピーターがぼやいていたヒーローの仲間の1人なんだろう。体が引き締まっているし、目は誠実そうだ。  リアはそう判断して自分の隣を叩くと、ダニエルはそこに座った。

「あのままじゃ首が痛いだろう?」
「其処まで柔じゃない」
「だろうな、ピーターと違って鍛えられてる。スポーツか何かを?」
「まぁね。でも、」
「私が木の上にいたことが驚きだった?」
「ああ。噂で聞く中じゃ、君はこんなことしなさそうだ」

 そう告げたダニエルにリアは肩をすくめた。
 ――噂、ね。

「噂を聞いた上で仲良しな君達の私の第一イメージは?」
「エヴァ――あの時いた女の子は、どこのディズニープリンセスよ、とボヤいていたかな。サムなんかはずっと美人だって騒いでたし、ルークはとっつきにくい、とも。僕も、君はお姫様みたいなイメージだったけど変わりそうだ」

 そう言って口に笑みを浮かべた彼に、お姫様という柄じゃないんだがな、とリアは苦言する。

「周りが思ってるほど私は完璧ではないよ。周りが思ってるほどお姫様でもないな。ないな。ないない」
「そう?」
「そうだ」
「やっぱり本人と話してみないとわからないな」
「本は表紙で判断すべきではないし、評判もあてにならないものだろう。幻滅したか?」

 そうリアがぼやけば、いいや、と彼は首を横に振った。

「俺はダニエル・ランド」
「知ってる。ピーターの友達だ」
「……君とも仲良くなりたい」
「リア=ステイシー。リアとよんでくれ」
「わかった、リア。よろしく。……ところでリア、どうして木の上に?」

 首を傾げたダニエルにリアは視線を泳がせる。

「あー……視線が鬱陶しくてな。自由な時間は誰だって必要だし、こうしてちゃんと誰かと話す時間も欲しいんだ。よくピーターとはこうして話してる。誰にもとやかく言われないし。ステイシー家のお嬢様がこんな場所にいるとは思わないだろう?」
「違いないな」

 クスリ、と笑ったダニーにリアもクスリと笑った。


木の上の姫君は


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