「どうやら、君のマスターは優れていたらしいな」
マスター・メイスに告げられた言葉に笑みを浮かべる。マスター本人が聞いていれば、きっと否定するだろうそれだが、私もそう思っている為こくりと頷いておいた。それを見たマスター・メイスは少し驚いていたが。
「だが、お前を見ていると、クワイ=ガンのパワダンを思い出す」
「だなんて言われてしまいました」
偶々出会った若きマスター、改めオビ=ワン・ケノービ、ややこしいのでケノービと一緒に廊下を歩く。行き先が同じだからと半分程資料をもってくれている彼は優しい人である。
「俺と、貴女とが?」
「えぇ」
「まさか、だって、貴女は俺より優れてる」
「いえ、それはありません。私はただ、貴女より実戦の経験があるだけで」
「実戦?」
「ええ、実戦です」
涼しい顔で告げてみれば、彼が顔をしかめたのがわかった。
「リア、貴女は記憶が?」
「ここにくるまでの記憶がないんです。他はありますよ、……ちょっとくらいなら」
「例えば?」
「……惑星タトゥイーンで、マスターに拾われたこととか、ですかね」
「貴女はタトゥイーン出身なんですか?」
「正確に言えば違います。私は小さい頃、気づいたらタトゥイーンにいましたから」
「気づいたら?」
「ええ、気づいたら、です。貴方と貴方のマスターに助けられた時と同じですね」
くすり、と笑えば、固まった彼に首を傾げる。何か変なことでもしたか、と、「ケノービ?」と声をかければ彼はこちらから目線をそらした。
「オビ=ワン、リア」
「!マスター」
「マスター・クワイ=ガン」
背後からやってきた彼に、わたしたちは立ち止まり振り向く。
「ここにいたのか、探したぞ、オビ=ワン」
「すいません、マスター・クワイ=ガン。資料を運ぶのに手伝っていただいてました」
「資料?」
「えぇ、マスターの次のお仕事の下調べです」
「相変わらず、真面目な奴だ」
そう苦笑した彼も同じく私の前にできた資料の半分を奪い取るように持ち上げてくれる。いい、と断っても、「どうせ私達の行き先はメイスのところだからな」と言われてしまった。減ったからといって、ケノービからもらおうとすれば彼は頑なに首を左右に振った。仕方が無い。ありがとうございます、とだけ告げてまた歩き出す。
「リアは紙媒体の古いものの方が好きなのか?これは全て古いものだが」
「いえ、新しいものでわからない知識を補ったり補足のそれが大きいです。新しいものには目を通してしまったので」
「……全部か?」
「ええ。まぁ、実際と文書では違うことが多いんでしょうけど」
知らないよりはマシでしょう、と言えば二人が苦笑いをした。
「それも君の『マスター』の教えか?」
「いえ、こういうことはあまり教えられませんでしたね。あぁ、でも、」
そこで言葉を区切ったからか、今度は二人が首を傾げた。
「『彼を知り己を知れば、百戦しても殆からず。また、天を知り地を知れば、勝、乃ち窮らず』とは教わりました」
「……なんだって?」
ケノービが首を傾げる。マスターは何か考えているようであった。それに補足するように口を開く。
「敵を知って、自分の力量を知っていれば、百回戦っても危険はない。また、時と地の利を得て戦う者は、つねに負けることはないっていうことらしいですよ。第一、これは、貴方から――」
そこまで言って口を閉ざす。マスターがこれを私に告げた時。彼は何と言った?
――君と同じ名を持つ人からから教えてもらったんだが、な 「わぉ」
「リア?」
「……いえ、なにもありません。先を急ぎましょう」
なんということだ。やはりここはあの世界の列記とした過去で、マスターは私とわかって拾ったことになるのではないか。
天を知り地を知る
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