あの日から、どれだけの月日が経ったのだろう。あの日、右も左も分からない私にベンは救いの手を差し伸べてくれた。私に身寄りのないと判断した彼は、私に衣食住を提供してくれたのである。弟子、という肩書きのそれだが、彼はまるで父のように何もわからない私に教えてくれた。
そこで、わかったこと。ここは、あの有名な映画の世界だということだった。
何が原因でこんな世界に来たのかやどうして私に強いフォースが宿っているのかは謎ではあるが、来てしまったもの、得てしまったものは仕方がない。帰る術を探そうとも思ったが、見つかりそうもないので早々に諦めた。
ベン=ケノービ、本名をオビ=ワン・ケノービという彼に弟子入りしたとなると私もジェダイというそれに含まれてしまうことに気づいたのは最近であったりするが、ベンから直接本名を聞いたことがないため知らないふりをしている。
後、ライトセーバーを扱うのがちょっと楽しい。
私が年を重ねてしまえば、ベンも年を重ねてしまうのは道理で、ベンはすっかり年老いてしまっていた。実は何気にベンからは免許皆伝をもらっていたりするが、私が出て行きたくないためにベンの家にずっといる。ベンは笑って享受しているのだからいいだろう。
「リア」
「おかえり、マスター……って、あれ?」
ベンが連れてきたぐったりとしている青年は、何処か見覚えがある。後ろにつく、金ぴかのロボットや、白くて丸と円柱がくっついたようなロボットにも。
「ルークが倒れていた。手当てを頼む」
ルーク。
その言葉に、ぼんやりとしていた記憶が、まるでなかったピースが当てはまったようにはっきりとする。ルーク・スカイウォーカー。最後の希望。最後のジェダイ。
なんということだ、彼がここに来たのならば、私とベンーーマスターの別れが、近づいて来ていることになる。
「リア?どうした?」
「……いえ、なんでもありませんよ、マスター」
マスターが首を傾げたので、私は慌てて首を左右に振る。そして、ルークの手当てをはじめた。
「助けて、オビ=ワン・ケノービ」
そう繰り返すお姫様に、ベンは眉を顰める。今日で、マスターはベン・ケノービからオビ=ワン・ケノービに戻ってしまう。戦いに身を投じる。私も身を投じることになるだろう。自分がオビ=ワン・ケノービだと告げた彼は、何処か私を気遣っているように見えた。
「マスターがどんな名前であっても、私のマスターには変わりありませんよ」
そう言って笑えば、頭を撫でられる。
「……リアはどうする?無理は強いらないが」
「行きます、マスター」
「死ぬ可能性だってある」
「生きとし生けるもの、皆そうでしょう?」
まっすぐにマスターを見て言えば、マスターはふっと笑った。
「サポートは頼んだぞ、リア」
その一言に、心臓が跳ねた。
ヒーローに出会うことによる弊害
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