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さいかそうこく・三


 ――夜。
 孫市と某は酒を飲んでいた。いや、呑んでいるのは孫市だけで某は孫市の空の杯に酒を注いでいる。月が綺麗である。会話もない静かな空間で、そばにいる某の腰に手を回している。それ以上はしない。嫌われては困るからだ。
 孫市は津田氏と話していたことを思い出す。

 ――孫市、お前と某には奇妙な縁があるとみた。

 奇妙な縁。確かにあると孫市は思った。あの戦場で、あの一瞬の視線の交わりが初対面の筈なのに、何処か会ったことがある気がしたのだ。懐かしい、とも。しかし、会った記憶はない。幼少の頃にも、だ。ただ、懐かしい、と一瞬思った。

 腰に手を回された某もまたぼんやりと父である津田氏の言葉を思い出していた。

 ――お前はいつか選ばんとならん。雑賀か根来か。孫市か、わしらか。

 ぼんやりと孫市の顔を見る。「孫一」と重なって見えた気がした。外見も喋り方も何もかも違うのに、どこか似ている。きっと、中の方――魂があるのなら、それが似ているのだろう。
 男に好意は持たないだろう、と某は思っていた。なぜなら、記憶の片隅に居続ける「孫一」が、他の男に好意を持たせることを拒むのだ。しかし、女として生まれた以上、結婚して男であれ女であれ子供を孕まなければならない。それはわかっている。

「命令、してくれればよかったのに」

 某は小さく呟いた。孫市が驚いたように此方を向いたが、某は慌てて首を横に降り、カラになった杯にまた酒を注ぐ。
 そう、孫市と結婚しろと命令してくれれば良かったのだ。それならば、この男について行っただろう。自分の中に、「孫一」というあの一風変わった男が巣食う限りこの男には好意を持てないだろう。前の世の事なのに引きずる自分に飽きれがさすが、それほど惚れ込んでいた。幸せだった。

「――某?」

 孫市が不思議そうに某をみる。某は慌てて、なんでしょう、と尋ねた。孫市は某の頬を優しく撫でた。泣きそうな顔だった、と孫市は口に出そうとしたが噤んだ。

「故郷が恋しいか?」
「いえ」

 某はすぐに否定する。孫市は余計な詮索はせずに、そうか、と言った。某は話題を変えるように孫市にしゃべりかけた。

「そういえば、羽柴秀吉公とは、お知り合いなのですか?」
「秀吉か?秀吉はダチだ。色々あって、知り合った」
「色々?」
「あぁ」

 孫市の言葉に今度は某が、そうですか、ときりかえす。

 夜が、更けていく――


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