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いなえにし・弐



 朝起きたら兵に詰め寄られた。
 口々に、「姫さん、雑賀にはいかんといてくだされ!」やら「雑賀の頭領は女たらしですわぁ。近づかんときなはれ!」やら言われて、まさか、昨日の一部始終を見られたか、と思ったがそうではないらしい。昨日、雑賀の頭領が私について聞き回ったあげく、父上と話したとか。今日もきてはります、と一人の兵が指差した方向には父上と話す雑賀の頭領がいた。一色だけ緑なので目立つことこの上ない。私の視線に気づいたのか父上は手招きをし、雑賀の頭領は笑みを浮かべる。ぞわり、と悪寒が走った。行きたくない。

「姫さん、どうしたん?津田さまがよんでるで?」
「し、霜。いやな予感がするんです。いやや、あっち行きたくない」
「姫さん、すまんなぁ。津田さまにひぃさん連れてくるよう頼まれてるさかい、」

 がっちりと腕をとられ、もがくが逃げれそうもない。諦めて引きづられるように父上の元へ行けば、雑賀の頭領が私の手をとった。

「おはよう、某」
「……おはようございます、雑賀の頭領さん」
「いやいや、昨日ちゃんと名乗っただろ?」
「……離してくださいませ。雑賀様」
「名前」
「お離しくださいませ、孫市様」

 ため息交じりにそう言えば、満足したように手を離す。私は父上のほうを見た。

「父上、何ようでしょうか?」
「なんじゃ、某。もう、孫市と知り合っとったんか」
「えぇ、昨夜の晩に」
「襲われたのか?!」
「いえ、月が綺麗だったので月見をしていたらその時に」
「姫さん、また一人ででてはったん!?あかんやろ!根来衆だけじゃないねんで?襲われたらどないするん!」

 霜の言葉にとりあえず謝り、そして父上に続きを促す。

「あぁ、某、孫市をどう思う?」
「おいおい、本人を目の前にしてそんなこと聞くなよ」
「うるさいわい、孫市は黙っとれ」
「見た目は色男。銃の腕前はさすが。言動からして好色家」
「……」
「ほう、で?」
「で?」
「好きとか嫌いとかあるじゃろ」
「父上は私に何をおもとめか」

 もう一度ため息をつく。

「なんとも言えない。判断する材料が少ないが、あえていうなら苦手です」
「ほう、お前さん好色家は苦手やもんな」
「理解はありはんねんけどねぇ」
「好色家が近くにいますからね」

 ちらり、と霜を見る。霜は苦笑いを零した。父上も苦笑すると、まぁ、ええか、と雑賀の頭領に顔を向ける。

「孫市、連れてけぇ。金出されちゃあしゃあない。でも、一年だけじゃ。一年以内に撃ち落とせたらそのまま奪ってくれや。まぁ、たまに連れ帰ってこい」
「いいのか?」
「おん」

 父上は雑賀の頭領からこちらをむく。いつになく真剣な目だ。

「某。お前は一年間、雑賀の孫市に雇われた傭兵や」
「はい?」
「まぁ、小姓じゃな。手を出されたら小銃で撃ち殺してもええ。色小姓じゃないからな」
「父上、話が見えませぬ」
「ふむ。孫市にお前指名で金積まれたさかい、一年間、傭兵として孫市につけ。これは命令や」
「はぁ、」
「まぁ、孫市はいろんな所をフラフラしとるし、根来以外をみるんも勉強になるやろから。いってこい」
「はい、わかりました」
「孫市、某には準備さすさかいに数日暇くれ」
「それくらいなら待つさ」
「そっちの里に訪ねさせるさかいに、雑賀でまっとれや」

 父上の言葉に、雑賀の頭領は頷く。そして、向こうからお呼びの言葉がかかり、「じゃあな、某」と私の頭を撫でて去っていった。父上はため息をつく。

「相変わらず、よめん小僧じゃ」
「父上、」
「某、お前もいい年や。そろそろ結婚せなあかん」
「雑賀の頭領――孫市様と?」
「いや、あれは候補にすぎん。一年一緒に過ごせば孫市のこともわかるやろう。嫌やと思ったら帰ってこい」
「はい」
「某、お前はわしの娘じゃ。幸せになってほしい」

 父上はそう言って優しく笑う。私は何も言えずに、ただ、父上を見上げていた。


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