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NEVER DESPAIR:ULTIMATE

ZERO-BASED-1
 動きやすい服に身を包む。ブーツの靴紐が解けないように、その上にカバーを被せた。
 周りでかわされる会話はかなり少ない。みんな僕と同等に、この試験に緊張しているんだろうか。その割には自信あり気な人が多いけど。それだけ個性が凄いんだろうか。個性が凄いと試験はあまり関係してるようには思えない。
 手袋をギュッと握って、弓を組み立てる。背中に矢のホルダーを背負えば準備は万端だ。

 ここは雄英高校の試験会場だ。目の前には小さな街が広がっている。この街で、仮装敵と呼ばれるものを倒しポイントを稼ぐ。恐らくはポイントが高い人が合格するシステムなのだろう。倍率も日本では一番高いと聞いた。しかし、この高校に受かれば、ヒーローになる最短の道であるとも言える。『Slow and steady wins the race(急がばまわれ)』とはいうけれど、僕にはどうしても最短の道が必要だった。そう、あの頭の固すぎる父親から自立をするには。
 頭に浮かんだ父親の姿に、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。

「はい、スタート!」

 頭上から聞こえてきた言葉に、はっと意識を戻す。呆然とする周りを置いて、僕が試験会場に足を踏み入れれば、周りもはっとしたように試験会場へ足を踏み入れる。試験は十分間。油断しないように、頑張らないと。


 街を疾走し、全体を見渡せるビルへ登る。弓を素早く構え、周りに浮遊する仮想敵に的を絞った。弓を引けば、かなり小さな音でキリキリと音がする。そのまま放てばその仮想敵は壊れてしまったようで墜落していった。そのまま別の仮想敵に構えるけれど、それは他の誰かに壊されたらしく視界から消えていく。なるほど、考えることなく早撃ちで射たほうが良さそうだ。矢のホルダーから矢を三本を取り出して、弓をひく。視界に写った敵に放てばその敵に向かっていく矢。すぐに聞こえてきた破壊音に、誰かの「勝手に爆発した!」という声。恐らく、その人からは僕が見えなかったに違いない。もう一度三本の矢をとり、弓を構えて敵を視界に入れて矢を射る。破壊音がまた聞こえた。
 これが、僕の表向きの個性だった。「百発百中<ターゲットブレイク>」と僕と僕の知り合いはよんでいる。僕が放った矢や銃弾、はたまたボールや紙くずなんかも僕が「的」だと認識したものには必ず当たる。『狙った獲物は逃さない』だなんて、よく怪盗小説に書かれる文面ではあるけれど、僕も色々とそれに当てはまると言えよう。まぁ、意味は少し違うけどね。
 ヒーローとしては少し地味かもしれないけれど、これは僕の表向けの個性でしかない。周りの大人が「危ないから」というので、本来の個性で作り上げた偽の個性なのだ。
 ……ちなみに、矢が爆発したりするのはアレだ。僕の友達が作ってくれた。世界的に有名なサポート会社に勤める彼女は、僕の唯一無二の親友でもある。まあ、彼女についてはおいおい話そう。
 周りを見渡して、仮想敵を探す。その間に危険そうな子を助けてみたりするが、だいたいが「誰かしらないが、邪魔するんじゃない!」などと暴言を吐く。もうちょっとお礼を言ってくれてもいいんじゃないかな。

「あら、こんなところに人が」

 聞こえてきた声に、矢を構えたまま後ろを向く。後ろには、黒い髪の女の子がいた。真っ黒の髪は、いかにもアジア系の女の子っていう感じだ。まぁ、ここは日本であるし、個性によって姿も色も変わるから正確にそうとはいえないんだけど。僕はとりあえず矢をおろし、女の子を見る。女の子は僕を見て首を傾げていた。

「弓っていうことは、さっき助けてくれたのは貴方だったのね?」
「うーん、そうなるのかな? ごめんね、たすけちゃって」
「どうして謝るの? 助けてくれたのに。ありがとう、助かったわ」

 女の子の言葉にぱちくりと目を瞬かす。どうしたの?と首を傾げた女の子に、「勝手なことするなって、怒るかと思った」といえば「そんなこと言う人もいるのね」と返答が来る。

「名前を聞きたいところだけど、お互い受かってからのほうが良さそうね」
「そうだね、まだ試験中だし」
「また会えたら会いましょう」

 そう言って、ぴょん、と凄い跳躍を見せた女の子に目を瞬かす。なるほど、それがあの子の個性らしい。ちらりと視界に写った仮想敵に顔は彼女に向けたまま手だけで矢を射れば、敵は爆発した。着地したらしい女の子がコチラを見上げてきたので、とりあえず笑顔で小さく手を振れば女の子は小さく振り返して道をかけて行った。
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