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NEVER DESPAIR:ULTIMATE

EXTREME PEOPLE


 その二人は対極であると言っていい。
 対極に位置する人間はコミックにはつきものである。ヴィランとヒーローという対ではなく、いわばヒーローとヒーローの対極。ジャスティス・リーグで言えば、スーパーマンとバットマン。アベンジャーズで言えば、キャプテンアメリカとアイアンマン。そう、思想の対というものが存在するのだ。ソレは、この世界においてもそうだろう。そして、書類にいる二人はそうだと言っていい。
 かたや、頑なにヒーローに向かない個性を持ちながらヒーローになりたいと言う息子。かたや、ヒーローの素質は充分にあるというのに、警察官になりたいという生徒。真逆であればうまくいくであろう事柄に、深くため息を付いた。

「トニー、幸せ逃げるよ」

 そう笑ったケイトに、お前は他人事だなぁ、とつぶやく。俺の手からスルリと書類を奪った妻はそれに目を通すとそのまま机においた。

「他人事じゃないかな、片方息子だし」
「見てるぶんには他人事だ」

 そう告げて、妻に手を伸ばす。その手をとった妻につい笑みが零れた。そのまま手の甲に口吻を落とせば、ケイトは苦笑いをした。

「トニーはどうしてそんなにあの子をヒーローにしたくないの?」
「それは、あの個性が危険だからだ」
「嘘だ。それなら、私がこの世界でヒーローになることはできなかった」
「――、」
「確かに、私は『あの世界』で能力を暴走させた」
「ああ、ニューヨークを氷漬けにした。寒かったな、あれは。異常気象すぎる。アレと同じことがあれば、親の監督責任だろう?」
「それは、言い訳」

 そうバッサリと切り捨てたケイトに、少し眉を潜める。

「あの個性は滅多なことじゃ暴走しない。私はどこかの魔法使いさんにもっと強い力を与えられたから、それに呼応して暴走しただけ。現に、あの子は小さいころに暴走をさせたけど、もうしなくなった。それに、もうそんなことが起きないようにもしてる」
「――」

 ケイトは俺の手をとると、まっすぐに俺を見た。昔から変わらない目だ。真っ直ぐな。まるで、あのキャプテンアメリカのような。意志が強くて、でも、優しさを含んだ目である。俺や、オレの父親とは正反対の。そして、オレはその瞳に弱い。昔から、何もかも見透かされている気がしてならない。彼女のような瞳を持つものはオレのような人間だけでなく、多くの人に好かれるのだろう。教え子の相澤なんかもそうで、今もケイトさんケイトさんとついて回っている。

「何が怖いの? ウィリアム」

 ――いや、事実、彼女は見透かしているのだ。
 何故、オレが息子を手元に置きたがるのか。なぜ、個性の暴走を恐れるのか。そして、ヒーローに向いていないと告げるのか。
 全て、見透かしている。でも、こうやってたずねてくるのである。まったく、困った妻だ。

「――オレは」

そう、俺は、この妻を失うのが、ひどく――。



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