「やっと追いついたわ、ヒロくん」
一緒に帰ろうって言ってたのに、先に行っちゃうなんて酷いわ。
そんな台詞と共に横に並んだの梅雨ちゃんである。彼女は僕を見上げる。僕は今どんな顔をしてるんだろう。怒っているのか、泣きそうな顔なのか。不機嫌なのか。
「ヒロくんのお父さんはトニー・スタークなの?」
そう首を傾げた梅雨ちゃんに頷く。
「うん」
「だから似てたのね」
「……うん」
「ヒロくん、泣きそうよ?どうしたの?」
そうか、僕は泣きそうな顔をしていたらしい。
「ばれたく無かったのにな」
「どうして」
「だって、周りの見る目が変わるじゃないか」
そうポツリとつぶやく。
――何時からだっただろう。同じクラスだった友人達が、僕を「トニー・スタークの息子」だと捉え始めたのは。周りの教師や、大人がそう接したからかもしれない。
トニー・スタークの息子のくせに。
トニー・スタークの息子だから。
全てにおいて、父親の名前がつきまとうのだ。そして、人によっては僕を利用して父親に会おうとする人もいた。
それが、嫌だった。僕は僕なのに。
そういえばそう言うだけ、友達は減った。父親にあわさなくても減った。
そうした日々の繰り返しで、僕の友人はナオミとリグだけになった。日本に来て新しい友達ができたと思ったのに。ばらされたんじゃあ、意味はない。きっと、皆離れていく。僕の肩書だけを見て、僕を見ないまま。
「――みんな、見る目が変わるんだ。僕がトニー・スタークの息子だって知ったら。何をしても、父さんの息子だから、がつきまとう。どんなに頑張っても、ね。それが嫌で日本に来たのにな」
ポツリ、とつぶやけば梅雨ちゃんが何を返そうかあぐねているのがわかった。それに苦笑いをする。無理に返さなくていいよ、といって梅雨ちゃんから目を背けた。
しばらく無言が続く。気まずいなぁ、と思っていれば、信号待ちである。余計に気まずい。その時、くしゃり、と頭を撫でられた。
「ヒロくんはヒロくんよ。私はそれを知ってるし、クラスのみんなも知ってるわ」
「……そうかな、」
「そうよ。私、ヒロくんに取り入ってまでトニー・スタークに会いたいとは思ってないわ。S.H.I.E.L.D.のレスキュー隊には興味あるけどね」
そう言ってケロッと笑った梅雨ちゃんに、僕はフリーズする。
なんて、言えばいいんだろうか。
こんなこと言われたのは初めてだ。口元が緩むのを感じて、口元に手を持っていく。
「……あり、がとう?」
「疑問系なの?」
「どう反応したらいいのかわからなくて、そんなこと言われたの、はじめてだから……」
そう言って、ちょっとだけ梅雨ちゃんから目をそらして梅雨ちゃんを見れば目をまんまるにして僕を見ていた。変なことでも言っちゃったのかな。
「話は聞いたぞ!ヒトトセくん!」
「そうだよ!聞いたよ!」
「え、あっと、邪魔、じゃないかなぁ」
梅雨ちゃんに何か声をかけないと、と、思っていれば、後ろから声をかけられる。ビクリと顔を上げてしまったのは仕方がない。振り返れば、飯田くんと麗日さん、緑谷くんがいた。
ドシドシと歩いてきた二人は僕の手を取ると口を開く。
「ヒトトセくんはヒトトセくんだ!」
「そうだよ!だから私ともっと仲良くしてください」
「麗日さん、なんだかソレ、ヒトトセくんを利用してるように聞こえるよ」
そう苦笑いした緑谷くんに、僕も苦笑いをする。緑谷くんは僕を見上げた。
「僕はヒトトセくんにヒーローになってほしいよ。かっこいいじゃないか、弓のヒーローなんて見たことないし、ホークアイやグリーンアローみたいだし……」
「ありがとう。僕、頑張るよ」
そう言えば、私も俺も、と、背中を麗日さんと飯田くんにバシバシと叩かれた。ちらりと梅雨ちゃんを見れば、良かったわね、と頭を撫でられる。その時少し背伸びしていたのが可愛かった、だなんて口が裂けても言えないけど。
頭のなかで違う言葉を探して、見つけたそれを口にする。
「これからも、よろしくって言っていい?」
「もちろんよ」
「もちろんだよ!」
「勿論!」
「もちろん!」
そう言った四人に心がどこかホッコリするのを感じた。
「じゃあ、改めまして、よろしく。ヒロってよんで」
そう笑えば飯田くん以外固まってしまった。なんだろう?
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一緒に帰ろうって言ってたのに、先に行っちゃうなんて酷いわ。
そんな台詞と共に横に並んだの梅雨ちゃんである。彼女は僕を見上げる。僕は今どんな顔をしてるんだろう。怒っているのか、泣きそうな顔なのか。不機嫌なのか。
「ヒロくんのお父さんはトニー・スタークなの?」
そう首を傾げた梅雨ちゃんに頷く。
「うん」
「だから似てたのね」
「……うん」
「ヒロくん、泣きそうよ?どうしたの?」
そうか、僕は泣きそうな顔をしていたらしい。
「ばれたく無かったのにな」
「どうして」
「だって、周りの見る目が変わるじゃないか」
そうポツリとつぶやく。
――何時からだっただろう。同じクラスだった友人達が、僕を「トニー・スタークの息子」だと捉え始めたのは。周りの教師や、大人がそう接したからかもしれない。
トニー・スタークの息子のくせに。
トニー・スタークの息子だから。
全てにおいて、父親の名前がつきまとうのだ。そして、人によっては僕を利用して父親に会おうとする人もいた。
それが、嫌だった。僕は僕なのに。
そういえばそう言うだけ、友達は減った。父親にあわさなくても減った。
そうした日々の繰り返しで、僕の友人はナオミとリグだけになった。日本に来て新しい友達ができたと思ったのに。ばらされたんじゃあ、意味はない。きっと、皆離れていく。僕の肩書だけを見て、僕を見ないまま。
「――みんな、見る目が変わるんだ。僕がトニー・スタークの息子だって知ったら。何をしても、父さんの息子だから、がつきまとう。どんなに頑張っても、ね。それが嫌で日本に来たのにな」
ポツリ、とつぶやけば梅雨ちゃんが何を返そうかあぐねているのがわかった。それに苦笑いをする。無理に返さなくていいよ、といって梅雨ちゃんから目を背けた。
しばらく無言が続く。気まずいなぁ、と思っていれば、信号待ちである。余計に気まずい。その時、くしゃり、と頭を撫でられた。
「ヒロくんはヒロくんよ。私はそれを知ってるし、クラスのみんなも知ってるわ」
「……そうかな、」
「そうよ。私、ヒロくんに取り入ってまでトニー・スタークに会いたいとは思ってないわ。S.H.I.E.L.D.のレスキュー隊には興味あるけどね」
そう言ってケロッと笑った梅雨ちゃんに、僕はフリーズする。
なんて、言えばいいんだろうか。
こんなこと言われたのは初めてだ。口元が緩むのを感じて、口元に手を持っていく。
「……あり、がとう?」
「疑問系なの?」
「どう反応したらいいのかわからなくて、そんなこと言われたの、はじめてだから……」
そう言って、ちょっとだけ梅雨ちゃんから目をそらして梅雨ちゃんを見れば目をまんまるにして僕を見ていた。変なことでも言っちゃったのかな。
「話は聞いたぞ!ヒトトセくん!」
「そうだよ!聞いたよ!」
「え、あっと、邪魔、じゃないかなぁ」
梅雨ちゃんに何か声をかけないと、と、思っていれば、後ろから声をかけられる。ビクリと顔を上げてしまったのは仕方がない。振り返れば、飯田くんと麗日さん、緑谷くんがいた。
ドシドシと歩いてきた二人は僕の手を取ると口を開く。
「ヒトトセくんはヒトトセくんだ!」
「そうだよ!だから私ともっと仲良くしてください」
「麗日さん、なんだかソレ、ヒトトセくんを利用してるように聞こえるよ」
そう苦笑いした緑谷くんに、僕も苦笑いをする。緑谷くんは僕を見上げた。
「僕はヒトトセくんにヒーローになってほしいよ。かっこいいじゃないか、弓のヒーローなんて見たことないし、ホークアイやグリーンアローみたいだし……」
「ありがとう。僕、頑張るよ」
そう言えば、私も俺も、と、背中を麗日さんと飯田くんにバシバシと叩かれた。ちらりと梅雨ちゃんを見れば、良かったわね、と頭を撫でられる。その時少し背伸びしていたのが可愛かった、だなんて口が裂けても言えないけど。
頭のなかで違う言葉を探して、見つけたそれを口にする。
「これからも、よろしくって言っていい?」
「もちろんよ」
「もちろんだよ!」
「勿論!」
「もちろん!」
そう言った四人に心がどこかホッコリするのを感じた。
「じゃあ、改めまして、よろしく。ヒロってよんで」
そう笑えば飯田くん以外固まってしまった。なんだろう?
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