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NEVER DESPAIR:ULTIMATE

PHYSICAL FITNESS TESTS-3
 そう首を傾げていたら、あっという間に僕の番がやってきた。頑張ってね、という梅雨ちゃんの言葉に、うん、と頷いておく。僕もあまりヒーローらしい記録が出ているわけではない。ボールを握って、太陽を見る。最大の的は太陽だけど、その前に違う場所にも当てたほうがいいだろう。まっすぐ、そう、ずっと真っすぐ行ったら大きなタワーがあるはずだ。視界に入ったそれに頷いて、第一球を投げる。びゅん、っと飛んでいったボールはしばらくしてタワーにあたったらしい。ピピっという音とともに、記録が表示された。約7キロ。ふむ、まぁまぁ、かな。周りも少しざわついてくれた。もう一球ボールを渡されて、ボールを握る。次は本題である太陽だ。麗日さんみたいに、無限が出ればいいけど。もう一度おおきく振りかぶって投げる。ビュン、と飛んでいったそれ。何秒掛かってもピピっという音がならない為、苦笑いする。先生が機械を操作すると音がなり、記録が表示された。記録は『無限』。周りの言葉に小さくガッツポーズをすれば、先生からなんとも言えない視線を頂いた。

「わわっ!おんなじ記録が出るなんて思わなかったよ!」

 そう言って笑った麗日さんに、「僕が目立てる種目はこれしかないんじゃないかなって頑張ってみた」と笑えば「そんなことないわよ」と梅雨ちゃんが返してくれた。それから、何事も無く種目を終える。なんとか平均以上になってるだろうと息を吐けば、偶々隣にいた八百万さんが「幸せが逃げますわよ」といってくれた。

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括表示する」

 そう言って端末を触る先生にゴクリとつばを飲む。ソレは周りも同じだったらしく、そわそわしているのが聞こえた。

「ちなみに除籍はウソな」

 結果を表示する本当にちょっと前である。相澤先生がそんなことを口にした。ポカン、としている僕達に先生は「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」などという。その言葉に、周りは驚きのあまり叫びだした。僕はフリーズした。の、のせられた。のせられてしまった。隣にいた八百万さんが「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ」という。

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ぇ通しておけ」

 そう言って立ち去る先生に、僕はがっくりと肩を落とす。父親という言葉に乗せられた感がする。記録は上位に入れていて安心はしたが。梅雨ちゃんが心配してくれたので、苦笑いして一緒に教室に戻ることにした。
 帰り道、相澤先生と見知った後ろ姿が見えて瞬きする。「あ」ともらした声に、三人が振り返り、梅雨ちゃんが首を傾げる。見知った後ろ姿――母さんは手をヒラヒラと振った。梅雨ちゃんに先に行っておいて、と言って母さんに近づく。

「おつかれ〜、ヒロ。さっきの子は彼女?」
「友達だよ!入試であったんだ」
「可愛い子だな。よし、今度絡みに行こう、むしろ消ちゃんのクラスに割り込みに行こう」
「母さん、それ、職権濫用じゃないの」
「いいんだよ、毎年してるから」

 あっけらかんと言い放った母さんに先生二人を見る。というか、消ちゃんって。

「もしもボックス使うかなって見に来たけど、使わなくてよかったよ」
「うーん、使いたかったな」
「ダメ」

 そう言った母さんは僕にデコピンをする。僕が額を抑えると、母さんは何処か真剣な目で僕を見た。

「トニーからの伝言。『もしもボックス使ったら連れ戻す』」
「どうしてそんなに干渉するのかな。ほっといてくれたらいいのに」
「心配なんだよ」
「――アイツ……トニーサンはヒトトセに帰ってきて欲しいんですか?」

 先ほどまで黙っていたのに、首を傾げた先生。母さんは「うん、そうみたいなんだよね」と言葉をこぼす。ソレを聞いた先生が「なら、」と口を開いた。何処か愉快そうな顔だ。

「俺が戻させませんよ」
「おやや?」
「俺、アイツ嫌いなんで」

 そう言い放った先生に、母さんは苦笑いして「相変わらずだなぁ」と笑った。そして、「ヒロをよろしくね、」と先生の頭をクシャリと撫でてから消える。恐らく仕事に戻ったんだろう。先生は母さんが消えた場所を見つめていた。

「先生は父さんが嫌いなんです?」
「ああ」
「っというか、さっきの言葉から言えば、僕は除籍なし……?」
「そんな訳がないだろ。戻さないとはいったが、除籍にしないとはいってない。お前に見込みがなければ切り捨てる」
 ほら、さっさと教室もどれ。

 そう言って追い払うような動作をした先生に、僕は少し頬をふくらませてその場を後にする。その後は教室にいた梅雨ちゃんと合流して、話しながら帰った。

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