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NEVER DESPAIR:ULTIMATE

THE PASSING MARK
「合格おめでとう!」

 そうニコニコと笑いながら、僕が暮らすことになったマンションの一室へやって来たのは僕の母親だった。何時も後ろでまとめている真っ黒の髪をおろしているのを入るのを見ると今日は休日らしい。右目につけている何時もは黒い眼帯も医療用の眼帯に変わっていた。そんな彼女の手には『雄英高等学校』と書かれた手紙を握っている。もしや。

「母さん、読んだの!?」
「読んでないよ、私を誰だと思ってるのさ?ゆ・う・え・い・り・じ・ちょ・う・だよ?知ってたからヒロが読む前にネタバレしただけ」

 ネタバレ、だと……?というか、理事……?
 そうサラリと告げた母さんに、混乱した僕は歯ブラシを咥えたまま間抜け面を晒す。「おっじゃまっしまーす!」とハイテンションに僕を置いて部屋に入った母さんはいつも通りマイペースだった。数秒置いて戻ってきた意識に慌てて扉を閉めて口を濯ぎ、母さんの元へと走る。母さんは僕のベッドしたを探っている。

「母さん、今の、どういうことってか、なにしてるの?!」
「えー、息子のベッド下にエロ本がないか探ってる。安心しなさい。お母さん、エロ本にはなれてるから、否定はしない」
「ないよ! なんであることが前提で話が進んでるの! ないってば!」
「必死になるあたり怪しい。よくそんな否定をする新入隊員が隠してる。まぁ、お父さんみたいに開き直ってるよかマシか」

 そう言って母さんは詮索をやめたらしい。おとなしくベッドに座って僕に向かい合った。

「合格おめでとう、ヒロ。一人で知らない国に来て試験を受けて受かるってすごいことだと思うよ」

 そう微笑んだ母さんの表情は綺麗だった。

 僕の出身はアメリカのニューヨークである。そう、僕はこの国に『就学ビザ』と呼ばれるそれをとって来ている。理由は3つほどある。ヒーロー学校に通うため、と、両親から自立すること。そして、父親の干渉を受けないようにすること。もとより母さんが日系であるし、父親も父親で多才な人物である。日本語を難なく話すことができたのだ。
 僕自身、小さい頃から多少は日本語に慣れ親しんでいたし、僕の『個性』を使えばすぐに慣れることができた。まあ、その後父親にこってりと絞られてしまったが。思えば、昔から僕の父親は僕に過干渉である。『個性を使うな』とすぐに言うのだ。自分のソレが危険だなんてわかってる。でも、多くの人の個性が危険だ。みんな自由に使っているのだから、僕だって自由に使いたいのだ。
 母さんから渡された手紙を開けてみると、確かに合格通知である。ソレをとりあえず机の上において母さんを見た。

「母さん、雄英の理事長なの?」
「うん、いってなかったけ?」
「聞いてないよ。学校の設立者で、運営に関わってるとは聞いてたけど。しかも、それが雄英だなんて聞いてない」
「設立者なんだよね、一応。だから、ずっと理事長なの。あ、試験は関わってないから大丈夫だよ。不正はしてない。……でも、名前をヒトトセで受けるのは関心しないなぁ」
 採点終わった後に、関係あるんですか?って聞かれちゃったよ。

 肩を竦めた母さんに、僕は眉尻を下げて口を開いた。

「ヒロ=スタークって名乗れば、中学の時みたいに、父さんがどうのって言われるじゃないか」
「そうだね。『貴方の父親があのトニー・スタークだ』とは言われないかな。その代わり、『貴方の母親はケイト=ヒトトセか』って先生から言われるだろうけど」
「でも、父さんがどうのって言われるよりマシだよ」
「う〜ん……トコトン嫌われよったな、哀れトニー」

 母さんは呆れた表情をみせる。でも、そこにはどこか悪戯っ子のような、おもしろそうだという表情が隠れているけれど。母さんは立ち上がると、さっさと玄関へ向かって歩き出した。

「もう帰るの?」
「息子の自立を妨げちゃいけないでしょ?」

 そう首を傾げた母さんに、そうだけど、と少し気を落とす。母さんはそれに少し笑って、僕を見た。

「学校で会えるよ、たぶんね。また会いに来るし」
「うん」
「ねぇ、ヒロ。トニーはね、心配なんだよ。だからあんなに過干渉になる。そんなに嫌わないであげて」

 ポンポンと僕の頭をなでて母さんはじゃあと扉を閉めた。
 せめても見送ろうと扉を開ける。マンションの廊下の先には母さんと父親の姿があった。振り返った母さんが苦笑いし、父さんは一目僕を見て、母さんになにか告げてコートを翻して歩いて行く。小さく手を降った母さんは父さんの隣に並んだ。どうやら父さんは僕のマンションの部屋の前までは来ていたらしい。少し眉間に皺を寄せてしまったのはしかたがないことだった。
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